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職場になじんだはずが欠勤続き 退職代行選ぶ新人の謎 フェリタス社会保険労務士法人代表 石川弘子(2)

2019/10/8

「さっき、退職代行会社というところから、A男はこれ以上出社することができないから、退職の手続きを進めてくれと電話があった。何か聞いているか?」

Y主任は驚いて、昨夜の様子をI支店長に話した。

「頑張るから、これからもよろしくお願いしますって言ってたんですけど……」

I支店長も「退職代行なんて、聞いたことはあったけど、まさかうちに来るなんて……」と戸惑っている。I支店長とY主任がインターネットで退職代行について調べてみたところ、数万円の費用を支払うと、本人に代わって会社に退職に関する連絡を代行するサービスのようだ。交渉などは一切しないらしく、あくまでも連絡の代行をするサービスらしい。

その後、退職代行会社は、「A男の離職票や源泉徴収票をA男に送ってほしい」「A男が持っている健康保険証などは郵送で今週中に送る」というA男の伝言を伝えてきた。退職代行会社の担当者にI支店長が、A男の退職理由を教えてほしいと聞いても、「一身上の都合」と答えるのみで、詳細については一切話すことはなかった。

それからは、A男が持っていた案件の対応に支店の社員は忙殺された。新人だったので、さほどの量はなかったが、書類やデータがめちゃくちゃで、主任に報告がなかった案件もいくつかあり、客からの問い合わせへの対応にも四苦八苦した。

数週間が経過し、支店もようやく通常の落ち着きを取り戻した。退職代行を使って突然辞めるというA男の態度に、最初は戸惑い、怒りも覚えたY主任だったが、日が経つにつれ、何とも言えないむなしさを感じていた。

「数万円を払ってでも、直接退職の連絡はしたくない、私たちとは話したくないってことなんですかね……」

と、寂しそうにつぶやくY主任に、

「主任は忍耐強く面倒見ていたと思うよ。今どきの子は本当に分からないな……」

とI支店長が主任をいたわった。

■馴染んでいるかに見える若手が、突然、退職する心理

「退職したい」と申し出ても、半ば脅して退職を阻止するブラック企業もあると聞く。そういった場合にやむを得ず退職代行サービスを使うこともあるだろう。しかし、ごく普通の会社で、本人も職場に馴染んでいるように見えて、突然、退職代行会社から連絡が来ると、周囲は理由が分からず、戸惑い、ショックを受ける。

友人とのやり取りもLINEなどで行っている世代としては、言いにくいことを直接言ったり、電話で話したりすることを、「面倒くさい」と考える人も多いようだ。また、電話等の双方向のコミュニケーションで慰留されたりすることが、「うざい」と感じる人もいる。

退職の申し出といった「面倒くさい」話は、たとえ数万円を支払ったとしても、誰かに代わってしてほしいと思うのだろう。「大事な話は相手と会って直接する」という管理職世代の感覚と若手の感覚にはズレがある。

A男がなぜ辞めたのか本当の理由は結局分からずじまいだったが、今後はこのようなケースも増えてくるのだろう。会社としては、突然の事態に対応できるような情報の共有や、仕事の相互サポート体制の整備などを進め、流動化に備えるしかないようだ。

石川弘子
1973年福島県生まれ。青山学院大学経済学部卒業。フェリタス社会保険労務士法人代表。一般企業に勤務するかたわら、2003年に社会保険労務士資格取得、04年独立。産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格も保有し、中小企業から上場企業までさまざまな企業の労務相談を受けるほか、企業のメンタルヘルス対策などにも携わる。著書に『あなたの隣のモンスター社員』。

モンスター部下 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 石川 弘子
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 850円 (税抜き)

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