■オーダーにはカスタマイズの楽しみがある

――石津さんはオーダースーツで失敗した経験はありますか。

石津「以前、5~6月に着るための綿のスーツを作ったんですが、久しぶりに失敗しました。ベージュのコットンで、その輸入生地の見た目はとても気に入ったんだけど、風合いを優先したら素材の機能がだめだった。はっ水性やシワに問題があったんです。雨がすぐ染みてしまうし、シワもできる。着ていて暑いのも気になる」

サイズ見本を試してみる。「大事なのは肩と腕。着心地は何枚も試着して感じるものなんだ」

――どんな季節に着たいのか、用途は何かといった情報交換は多いほどいいんですね。旬の情報にはこちらも敏感でないと。まさに「すし屋理論」です。そうして「お好み」を作ってもらう。

猿渡「着心地の良さは大前提として、オーダーにはカスタマイズの楽しみがあります。ベーシックで定番であるスーツをお客様のお話に合わせてイメージに近づけていく、そこがとても大切です」

石津「フィッターさんが着ているベージュのスーツがかっこいいね」

猿渡「これが制服なんです。すべて同じ生地を使っていますが、形はそれぞれが気に入ったものにカスタマイズしています。オーダーではこのように、同じ生地でも着る人の個性を出せますよ、というお客様へのメッセージでもあるんです。私が着ているこのグリーンのスーツも色違いの同じ生地をダブルに仕立てました」

――グリーンもすてきです。次回はいよいよ、生地選びに挑戦しましょう。

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

石津祥介
服飾評論家。1935年岡山市生まれ。明治大学文学部中退、桑沢デザイン研究所卒。婦人画報社「メンズクラブ」編集部を経て、60年ヴァンヂャケット入社、主に企画・宣伝部と役員兼務。石津事務所代表として、アパレルブランディングや、衣・食・住に伴う企画ディレクション業務を行う。VAN創業者、石津謙介氏の長男。

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