2019/9/28

科学者たちがクレーターの構造調査に着手したのは1996年。ジョアンナ・モーガン氏が地震探査を行ったときのことだ。モーガン氏は、今回の掘削調査でもギューリック氏とともに共同リーダーを務めている。このときの調査と、2005年に行われた2度目の調査で、「ピークリング」と呼ばれる、大型の衝突クレーターの内側に急速に形成される環状の山の存在を確認できた。この地質構造は掘削にとても向いていた、とギューリック氏は言う。ピークリングからは、巨大クレーター形成の基本プロセスがわかるほか、盛り上がった形状のおかげで、現代の海底から比較的浅い場所でアクセスもしやすくなる。

地球上で最も若く、最も保存状態の良好な衝突クレーターである「メテオクレーター」。5万年ほど前、幅約30メートル、重量10万トンの隕石が、推定秒速20キロでアリゾナ州の砂漠に衝突したことで形成された。その結果生じた爆発は、今日の核兵器をすべて合わせたよりも強大な威力で、幅1.1キロメートル、深さ200メートルのクレーターを生み出した(PHOTOGRAPH COURTESY D. RODDY (U.S. GEOLOGICAL SURVEY), LUNAR AND PLANETARY INSTITUTE)

2016年春、研究チームはついにチクシュルーブ・クレーターに掘削ドリルを入れ、1回あたり約3メートル分のコアサンプルを採取していった。2カ月かけて、採取したコアサンプルは全部でおよそ800メートル分にものぼり、衝突の真下で衝撃を受けた岩石、溶けた岩石の層、通常の海底堆積物への変遷がすべてそろっている。

溶けた岩

採取したコアサンプルを対象とした新たな研究では、岩石のデータとコンピューターモデルを組み合わせて、恐竜が絶滅した日の地質学的な混乱状態を記録した、実に詳細なタイムラインが作成された。

大きな発見の一つが、小惑星の衝突後に物質が堆積した際の速度だ。小惑星の衝突によって、海底は大きく削られ、岩や水は一瞬のうちに蒸発した。クレーター内部の衝撃波の波紋で、固い岩は液体のように流れてそびえ立つ隆起を形成し、それが外側に崩壊することでピークリングができあがった。わずか数十分後、さまざまなものが混ざり合った岩屑がピークリングの上に積み上がり、40メートル近い厚みの層となった。これらの物質には、溶けた岩石層も含まれていた。

1994年7月、木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星が残した衝撃が確認できる紫外線画像。黒く見えるのは、日光を吸収する大量のちりが木星の成層圏に溜まっているため(PHOTOGRAPH COURTESY HUBBLE SPACE TELESCOPE COMET TEAM)

次に、猛スピードで戻ってきた海水が、溶けた岩石の間に入り込み、今度は水蒸気爆発が起こった。ここでまた、多くの岩屑が舞い上がった。そうして衝突から1時間以内に、クレーターは「大きな桶の中で激しくかき混ぜられる岩石入りの海水スープ」といった状態となり、クレーターの切り立った壁が崩壊して水しぶきを上げていたと思われる。

「浴槽にバケツの水を注いだときのように、海は落ち着きなくバシャバシャと暴れまわり、水が揺れるたびにより多くの物質が堆積していったのです」と、メロシュ氏は説明する。

岩石は徐々に海底に沈殿していき、さらに大量の岩屑が分厚く積み上がった。衝突後わずか1日で堆積した新たな物質は、全部で約130メートルに達した。

硫黄の蒸発は想像以上だった?

研究チームはまた、クレーターの岩に硫黄がほとんど含まれていないことに気がついた。チクシュルーブ・クレーター周辺にある岩の約3分の1は、硫黄を多く含む蒸発残留岩と呼ばれる鉱物だが、チームが掘削したコアサンプルの中には、これらの鉱物が著しく少なかったのだ。

おそらく、小惑星の衝突で、クレーター内の硫黄を含む岩が蒸発したからだと考えられる。このことは、過去の研究で、小惑星の衝突で3250億トンの硫黄が放出されたとの主張を裏付けるものだ。ただ、硫黄がほぼ完全に存在しないという事実は、3250億トンでも推定が少なすぎることも示唆している。硫黄のガスは硫酸の霧となり、日光を遮って、長年におよぶ地球寒冷化を引き起こしたかもしれない。あるいは酸性雨を降らせて、海を急激に酸性化した可能性もあると、メロシュ氏は言う。いずれにせよ、その衝撃はあらゆる生物に破壊的な影響を及ぼしたことは間違いない。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年9月13日付]