山崎紘菜 母の贈り物で思い出す「200点の仕事を」
20代の女性2人が起業に挑戦する映画「スタートアップ・ガール」に主演する山崎紘菜さん。連続ドラマに初主演を果たすなど、着実に実績を重ねる25歳の彼女が見せてくれたのは、「20歳の記念にもらった」というダイヤのネックレス。「大切な日までは着けない」と決めているネックレスを見ながら語ってくれたのは、5年間で感じた仕事に挑む気持ちの変化だった。
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「これは母からプレゼントしてもらったダイヤのネックレスです。20歳の誕生日にサプライズでもらったんですよ。だからその時は、ただただびっくりしましたね(笑)。母には『20歳の記念に、本当に良いモノをプレゼントしたい』という思いがあったみたいで、ブランドは『4℃』。当時は宝石を使ったアクセサリーを持ったことがなかったので、『これが本物なんだな~』と思いました(笑)。
それから特別な時、例えば、お芝居が認められて賞をいただけた時とかに着けようと思って、大事に取っておいたので、このネックレスに触ったのは久しぶりなんです。いろんなことを思い出しましたね。『5年前の自分はこうだったな』とか『こういうふうにお仕事していたな』とか」
「5年前は大学生。お仕事はしていたんですけど、学業のことや友達のこと、いろいろなことを考えて、心の中がごちゃごちゃしていた時期でした。『このお仕事をやっていけるのかな?』という不安が大きくて、何をするにも自信が持てなかったですね。だけど、できる、できないじゃなくて、『やる!』と覚悟が決まったのが、この5年での変化。そして、いただいたお仕事を、100%じゃなく、200%で返せるように、と意識が変わりました。
きっかけは、ある人の言葉でした。
『紘菜ちゃんは100点のお芝居は出せるんだけど、見終わった後に、山崎紘菜ってヤバかったね、とはならないよね』と言われて、心に刺さったんです」
「そのときに『確かに100点の仕事をしようとしていたな』と自分で自分に対して発見があって。そこからは求められる100点以上の、200点のものを届けられるような存在になりたいと思うようになりました」
「普通」も個性だと受け入れて
9月6日公開の出演映画は『スタートアップ・ガールズ』。自由奔放な女子大生起業家と、大企業に勤める安定重視のOLが新事業を立ち上げる、「スタートアップ」がテーマの青春映画だ。山崎さんは安定志向のOL・南堀希を演じ、「東宝シンデレラ」オーディション出身の同期女優・上白石萌音さんとW主演を果たす。
「萌音とはデビューから一緒なので、お話を聞いたときは、2人とも主演を張らせていただけるようになったんだな、と思えてすごくうれしかったです。もちろん萌音はもう何本も主演をやっていますけど、『2人で』っていうことが本当に特別な感じがしました。
『スタートアップ』については、私は言葉自体知らなかったんです(笑)。私が大学生のときには、周りにそういう友達がいなかったですし。年齢に関係なく、誰でも起業してビジネスできる世界があるんだということを、この映画を通して学びました」
希は大企業に就職し、奨学金を返済しながら無難に生きたいと考えている女性。演じる山崎さん自身も、そんな「手堅い女」なのか。
「手堅いというか、普通の女です(笑)。もともとデビューするまでは普通の人生を歩んでいた女子高生でしたし、性格的にも希と似ている部分がありますね。よく『スパッとしてそうだね』と言われるんですけど、そんなことはなくて、クヨクヨ悩むんですよ(笑)。それに、こういう業界で才能のある人に囲まれてお仕事をしていると、自分には何もない……と言ったらアレですけど……普通であることにすごく悩んだ時期があって。だから希は、共感しながら演じることができました。
特に印象に残っているセリフは、『私は凡人だから!』です。凡人であること、普通であることは悪いこととして捉えられがちですけど、開き直って、それも個性だと受け入れればラクになる。コンプレックスから目を背けず、逆に強みにしちゃうって、ステキなことだなと思いました」
最近ではスタートアップ支援に力を入れる大学が増え、若い世代には就職せず起業する人が増えているという。山崎さんの「仕事観」はどうなのだろう。
「私が大学生の時は、卒業したら企業に就職するという流れがまだ普通だったと思います。だから就活の時に『やりたいことが見つからない』『自分には個性がない』と悩んでいる同級生がたくさんいましたね。
私自身も、女優が小さい頃からやりたかった夢だったかというと、そうではないんです。この世界でお仕事をするなかで、徐々にやりたいことや覚悟が固まっていったというタイプ。だからもし、夢や好きなことが見つからないという人がいたら、そこは不安に思わなくていいよ、と伝えたいです。
それに今は、就職したとしても、一生、その会社に勤めなくてもいい時代じゃないですか。途中で転職したり、辞めて起業したりもできるので、いくらでもやり直せる。そういういろいろな可能性についても、『スタートアップ・ガールズ』を見て感じ取ってもらえたらうれしいです」
カーシェアを活用。でもいつかはマイカーを
2019年は、「平成物語~なんでもないけれど、かけがえのない瞬間~」で連ドラ初主演を果たし、7月期のTBSドラマ「ノーサイド・ゲーム」にも出演。女優業に加え、ファッションモデルやお天気キャスターなど幅広い活躍を見せる。多忙な日々の息抜きは、買い物だ。
「大好きです、買い物(笑)。一番よく買うのは、洋服ですね。直感で、気に入ったら買うというタイプ。ただ無駄遣いはしないです(笑)。
最近買って良かったのは、背伸びして買わないといけないブランドの靴。今までは値段を見て、『これはちょっとがんばらないといけないから、買うのはやめよう』という買い物のしかたをしていたんです。でも最近、がんばって買ったもののほうが飽きないし、長く使えるということに気付いて、自分が好きな、本当に心が動いたものを買うようになりました。
そのおかげで、モノを大切にするようになりましたね。例えばバッグが悪くなったら直しに行く。服も、少し痩せたら、体形に合わせてサイズを詰める。お店にモノを持ち込む機会も増えました」
20年には、ポール・W・S・アンダーソン監督の「モンスターハンター」でハリウッドデビューすることも決定。国際派女優として羽ばたこうとしているが、日常生活は堅実だ。
「私、カーシェアリングをよく使うんですよ。1日使っても6000円くらいで、安いので。え、イマドキですか? いやいや、これからすぐに出てきますよ、私たちよりもっと新しい令和生まれの人たちが(笑)。でも、クルマが好きなので、本当はマイカーを手に入れたいと思っているんです。いつか夢がかなうようにがんばりたいと思います」
1994年生まれ、千葉県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。12年、「僕等がいた」で映画デビュー。14年には「神様の言うとおり」で初のヒロインを務めた。主な出演映画に「検察側の罪人」(18年)、「50回目のファーストキス」(18年)、ドラマに「カインとアベル」(16年)、「平成物語~なんでもないけれど、かけがえのない瞬間~」「ノーサイド・ゲーム」(19年)など。ラグビーワールドカップ2019開催都市特別サポーターなども務める。
「スタートアップ・ガールズ」
大企業で起業家への投資業務を行うOLの南堀希は、ある日、天才肌の大学生起業家・小松光と出会う。性格も服装も仕事に対する考え方も正反対の2人は反発し合うが、やがてビジネスパートナーとして新事業を立ち上げることに。果たして2人の「スタートアップ」の行く末は……?監督・池田千尋 脚本・高橋泉 出演・上白石萌音、山崎紘菜、山本耕史 2019年9月6日(金)全国ロードショー
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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