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若手リーダーに贈る教科書

「死に至る危険」が職場に潜む デジタルが生む重労働 『ブラック職場があなたを殺す』 ジェフリー・フェファー氏

2019/7/20

■オフィスの人間関係は生産性に影響する

さまざまなデータから、労働環境が健康に与える影響は深刻化していることがわかる。その理由の一つとして、仕事そのものの性質が変わってきたことが挙げられよう。とりわけ問題なのは、不安定な雇用が日常化していることだ。ギグエコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を受注するやり方や、それによって成り立つ経済)におけるフリーランス形態の仕事がその一例である。一部の予想によると、2020年までにアメリカの就労者の40%は臨時雇用で働くようになるという。
(CHAPTER 1 経営者の選択と人間の持続可能性 25-26ページ)

日本でも指摘されているように、非正規雇用の増加が職場の安定を損なっています。ギグエコノミーに象徴されるような、単位ごとに分割化された仕事の仕方は今後さらに広がることでしょう。そうすると、人々が物理的に集まっているオフィスにおいても、チームとして働き課題を乗り越える喜びを感じにくくなってしまいます。

テレワークや在宅勤務、フレックスタイム制の拡充が進む中、対面でコミュニケーションを取らずに仕事をする機会はますます増えています。組織で個々のスタッフが孤立する状態だと、精神面でストレスの負荷が増すことになるのは間違いないでしょう。

人間関係が希薄な職場では、生産性を上げることが難しいのです。例えば、最近は組織の活力を高めてイノベーションを起こすには「心理的安全性」が重要だという考え方が注目されています。これは、グーグルが社内調査などを重ねて見つけ出したキーワードです。「この職場(チーム)なら何を言っても安全」という感覚を構成員が共有することを指しています。成果主義や時間管理の強化、効率化に直進する職場では「心理的安全性」とは正反対のベクトルを向いているところが多いように見受けられます。

■「変えるべきこと」と「変えられること」

状況を改善するには、どうすれば良いのでしょうか。筆者は、コストや生産性ばかりにこだわるのでなく「人間の持続可能性」を常に考えなければならないと繰り返し訴えています。最終章の「CHAPTER 7」では、改革のために取り組むべきことをいくつか提案しています。

一方、幸福度の測定は健康よりかなり複雑にはなるが、けっして実行不可能ではない。ただし、幸福度やメンタルヘルスを計測する際にはさまざまな尺度が必要になるし、健康調査のように単項目というわけにはいかず、質問項目が多くなる。
(CHAPTER 7 変えられること、変えるべきこと 256ページ)

健康診断やストレスチェックを通じて従業員の「体と心の健康」に常に目配りすることは基本中の基本です。病気になってしまうスタッフが増えたとしたら、その原因を調べ、企業として取り得る対策を迅速に導入することが経営者の責務です。

こう指摘した上で、筆者はさらに踏み込んだ対策を提案しています。一例が従業員の「幸福度」の測定です。「職場のストレス」「仕事と家庭の両立」「仕事の裁量」などに焦点を当てて数値化する仕組みで、いくつかの手法が開発されているといいます。この分野で、人工知能(AI)の利用も含めテクノロジーの開発を進めるべきでしょう。

筆者が本書を執筆した狙いは、現状の告発だけではありません。問題提起と政策提言にも紙幅を割いています。著書の締めくくりの部分で「もしこの本が働く人の健康に資する研究や調査を一段と刺激するようなら、それは大きなよろこびである」と記しています。そして「経営者は職場環境をいかに改善すべきかという議論が活発化するようなら、私の研究はかなり報われたと言えよう」と心情を打ち明けます。

フェファー氏の投げかける問題は、日本の「働き方改革」がどうあるべきかという議論を進める上でも極めて参考になることでしょう。

◆編集者からのひとこと 日本経済新聞出版社・金東洋

「働き方改革関連法」が成立して以降、ブラックな職場環境は社会的害悪なのだという意識が高まっていると感じます。ところがブラック職場で働く人は、そこからなかなか足抜けできません。仕事を辞めるにもエネルギーがいるからです。そういった人たちが職場を辞められるのは、基本的には以下の3つの条件のうちのいずれかに遭遇したときだそうです。

(1)最後の決定打となるひどい事例にぶち当たる
(2)家族や友人が、辞める決心を手助けしてくれる
(3)心か身体が本当に病気になる

ブラック職場で働いている、あるいはブラック職場に苦しめられている家族・友人・知人がいるという方には、まず第6章をお読みになり、「ブラック職場を辞められない心理的要因」を知ることをお勧めします。そして、3つの条件のうちの(3)に該当する前に辞められるようにしましょう。

担当編集者としては、著者の以下の警句を胸に刻んで、これからの人生を生きていきたいと思いました。「労働者は文字通り、給料のために死ぬ。あなたもその1人にならないように」

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

ブラック職場があなたを殺す

著者 : ジェフリー・フェファー
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,944円 (税込み)

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