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難民となったIS戦闘員の妻と子 忠誠心の行く末は…

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/7/3

ナショナルジオグラフィック日本版

バグズからシリア北部のアルホル難民キャンプへ移送されてきた人々を、フェンスの向こうから眺める女性と子どもたち。彼女らはIS戦闘員の家族で、いまだにISを熱狂的に支持している(PHOTOGRAPH LYNSEY ADDARIO, NATIONAL GEOGRAPHIC)

シリア北東部ハサケ県、アルホル難民キャンプ。ここに暮らすのは、過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員の妻と子どもたちで、IS最後の拠点だったデリゾール県バグズから最近逃がれたり、投降してきたりした人々だ。キャンプでの暮らしはどんなものなのか、彼らはこれからどうなるのか、写真家リンジー・アダリオ氏がレポートする。

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キャンプに到着したトラックの荷台から、憔悴(しょうすい)しきった様子の女性と子どもが続々と降りてきた。彼女たちは、ホコリにまみれたわずかな手荷物を袋やスーツケースに押し込み、子どもたちを連れて何時間も移動してきた。保守的なイスラム教徒の証である黒いベールと、ゆったりとした長い服を身に着けている。歩いてキャンプに入る人ばかりではない。半分意識を失ったまま担架で運ばれる人もいれば、粗末な車いすに座った人もいる。敵意をのぞかせる人も、安堵の表情を浮かべる人も、皆一様に腹を空かせ、疲れ切っている。

母親にしがみつく3歳くらいのシリア人の男の子。他の女性や子どもたちとともに降伏し、バグズの町はずれでアルホルキャンプへ移送されるのを待っていた。男の子は、バグズでの戦闘中に、目に銃弾を受けたという。米国と有志連合が支援するシリア民主軍とISの戦闘により、多くの負傷者が出ている(PHOTOGRAPH LYNSEY ADDARIO, NATIONAL GEOGRAPHIC)

人道支援活動を行っているNGO「国際救済委員会」(IRC)の推定によると、2019年3月上旬には、まる2日で5000人以上の女性と子どもたちがキャンプへ到着した。2018年12月以降、6万人近くが押し寄せ、キャンプは崩壊寸前に陥ったという。急性栄養失調や肺炎、低体温症、下痢のため、子どもを中心に約100人がキャンプへ移送中または到着直後に死亡した。国連によると、世界の難民の数は6500万人以上にのぼり、第2次世界大戦以降最多となった。

米国が支援するシリア民主軍は3月末ごろ、ISが最終拠点としていたバグズの残りわずかな区域を制圧し、勝利を宣言した。その6週間前から激しい砲撃と軍事衝突が繰り返されるなか、シリア民主軍の設置した「人道的回廊」を通って、戦闘員の家族数万人が投降した。彼女たちは、おそらく戦闘中は人間の盾として利用され、わずかな食料と医薬品だけで不衛生なトンネルや洞窟に身を隠していたが、その多くは、今でもISを支持し続けている。

フィンランド、ヘルシンキ出身のサナーさんとその娘(一番右)。一緒にいるのは、バグズから逃れてきたばかりの他の女性や子どもたちだ(PHOTOGRAPH LYNSEY ADDARIO, NATIONAL GEOGRAPHIC)

この非常事態に、シリア国内外の支援団体や政府の組織は慌ただしく対応に追われているが、到着した難民たちがこれほど悲惨な状態にあるとは、誰も予想できなかった。ISへの揺るぎない忠誠心を捨てず、過激なイスラム教の教えを固く信じる女性や子どもを、この先どうすればいいのだろうか。

子どもたちはやせ細り、目はうつろで、トラウマと空腹に襲われ、混乱の中にあった。小さな骨ばった体には、泥や汚れがこびりついたままだ。これほどの悲惨な状態においても、女性たちはISの素晴らしさを信じ、崩壊寸前の現状を嘆く。彼女たちの出身は、ロシアのコーカサス地方、キルギス、イラク、シリア、フィンランド、フランス、英国、米国など様々だが、一部の女性はいまだにISが台頭しはじめた頃の思い出に浸り、近い将来何らかの形でカリフ(指導者)が再来するのではと期待している。

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