部課長は社員選挙 老舗船橋屋は「これでいいのだ」『Being Management』 渡辺雅司氏

働き手それぞれの資質をさらに高めるための研修機会が多い。内定者にも入社前から商品開発に参加してもらい、チームビルディングやマーケティングを学んでもらう。入社半年後の10月には1年後の自分を想定して、先輩の前でプレゼンテーションする。

評価の公平・透明性がチームのモチベーションを下支えしている。「社長も10項目で立ち居振る舞いをチェックされる。誰も楽はできない。でも、すがすがしい」(渡辺氏)。人事考課で重んじるのは、単純な数値的成果ではなく「行動を見ている」。経営方針を上層部が「奥の院」で練ることもない。「中長期の計画もみんなで作るから、むちゃな目標を上から押しつけられることはない」。ゴールを共有しやすい社風が育まれている。

「(和菓子は)自然のままが一番。経営も同じ」と話す渡辺雅司氏

開かれた人事制度を象徴する一例が「リーダーズ総選挙」だろう。社員全員と勤続5年以上のパートが匿名で幹部を選び出す。現在のナンバー2もこの投票で選ばれた。前回投票では6人が部長・課長職に起用された。6人のうち2人はまだ20代の若者だった。「選挙を通した人事のほうが、社長の好みで決めるような選び方よりもずっと公平で、社員からの納得感が高い」。

5人の新卒枠に1万7000人が応募

船橋屋が目指すのは「関わる人すべてを幸せにする」経営だ。きれいごとのように聞こえるかもしれないが、渡辺氏は至って本気。93年に入社して以来、時間をかけて会社のしくみを根っこから変えてきた。最初のうちは気負いがあり「新任の教師のようで、誰も彼も論破して抵抗勢力はバッサバッサと切っていった」と振り返る。しかし、自分も不調をきたした。「息ができないほど、体調を崩した」(渡辺氏)

その後は社内の理解者が徐々に増えていき、2000年代初めごろから改革の成果が徐々に上がり始めた。08年に8代目当主となり、「人にフォーカスする経営」を加速。人材育成に力を入れる社風が知れ渡って、今では「採用に困ることはなくなった」。人手不足が最大の経営リスクといわれるなか、2015年の新卒採用では5人の枠に約1万7000人がエントリーした。

「関わる人」にはもちろん顧客も含まれる。健康は最大の顧客サービスだ。「そもそも『健康食品』なんて、言葉が矛盾している。健康ではない食品があっていいのか」。単に食べ物を売るのではない。日持ちのしないくず餅を通した、顧客とその周りの大切な人たちとのコミュニケーションを仲立ちしていることへの自負がある。「この会社は誰のために、なぜ存在するかという問いを常に立てている」(渡辺氏)

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