世界の川侵す抗生物質汚染 耐性菌由来の病死広がる?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/6/24

ロージ氏はこの結果について、特に驚きはないと述べている。「日常的に医薬品を使用する人々が住んでいれば、その場所の下流からは確実にその痕跡が見つかります」

抗生物質は体内で分解されないため、余剰分は尿や便と一緒に排泄される。多くの先進国では、排泄物とその中の抗生物質は下水処理場に行く。だが、最先端の設備でさえ、抗生物質を完全に取り除くことはできない。下水処理場のない地域ではなおさら、抗生物質が河川に流れ込みやすい。

得られたデータは予想と一致していた。抗生物質の濃度が高かったのは、川に隣接するごみ捨て場や下水処理場の下流、あるいは汚水が川に直接流れ込む場所だった。

バングラデシュのある川では、皮膚や口の感染症に広く処方されるメトロニダゾールの濃度が、環境中で「安全」とされる限界値を300倍も上回っていた。欧州で2番目に長いドナウ川からは、7種類の抗生物質が検出された。なかでも、気管支炎などの呼吸器感染症の治療に使われるクラリスロマイシンは「安全」なレベルの4倍の濃度だった。

今すぐ対策を始めるべき

「さまざまな点で、プラスチック汚染の問題に似ています」とボクソール氏は話す。「問題は、我々が廃棄物の行方について何も考えていないことです。廃棄物は私たちの手を離れた後も存在し続けます」

ほんのわずかな量の抗生物質でさえ、薬剤耐性菌の出現に大きな影響を与える可能性があると、英エクセター大学の微生物生態学者ウィリアム・ゲイズ氏は言う。細菌は遺伝子のやり取りが得意で、進化のスピードは速い。たとえ抗生物質の濃度が非常に低くても、そうした進化は起きる。ボクソール氏らが世界中の川で確認したような濃度で十分だ。

薬剤耐性の進化がどのように起きるかを正確に理解するには、まだやるべき研究が山積みだとゲイズ氏は強調する。とはいえ、抗生物質が川に流れ込まないようにする対策は、今すぐ始めるべきだという。人の健康に深刻な影響を及ぼす恐れがあるからだ。

「予防原則に従うべきだとはよく言われますが、科学的な証拠が出そろう頃には、もう手遅れになっているかもしれないのです。私たちは抗生物質『後』の時代に突入してしまったのかもしれません。それは、庭のバラで引っかいた傷だけで治療不可能な感染症にかかり、命を落とす時代です」

(文 ALEJANDRA BORUNDA、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年5月31日付]

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