じめじめする日でも、見る人の心を晴れやかにしてくれる。
写真に映えるアジサイの名所を、専門家が選んだ。
長く日陰の存在 平成以降に注目
青や紫、ピンクに白。色とりどりに、降る雨との相性もよいアジサイ。もともと日本原産で、古くは万葉集の中にもアジサイを詠んだ歌がいくつか登場する。
アジサイは長い間、日陰の存在だった。多くの園芸書が出版されていた江戸時代、ツバキやキクなどは人気があったが、アジサイを取り扱ったものはほとんどなかった。花言葉の「移り気」が示すように、土壌で色が変わる性質がある。土壌が酸性だと青、アルカリ性だと赤になりやすい。川原田邦彦さんは「変節や浮気を連想させることから嫌われていた」とみる。
そんなアジサイの魅力を発見したのは外国人だ。1700~1800年代にシーボルトらが欧州に紹介。大正時代に改良種が日本に里帰りした。それほど注目されない時代が続いたが、平成に入って人気が急上昇してきた。病気に強く管理が容易なため、観光の呼び水として植える地域が増えている。見ごろは天候によって変わる。杉本誉晃さんは「前もって確認して出かけ、アジサイを堪能してほしい」と話す。
(神奈川県箱根町) 560ポイント
車窓に触れる近さ 夜の運行も
箱根の初夏の風物詩ともいえる「あじさい電車」。線路沿いでは6月中旬からアジサイが咲き誇る。1970年代、職員が自発的に植えたのを機に沿線に広がった。箱根湯本駅から強羅駅までの標高差は400メートル以上あり、標高が高くなるにつれて見ごろも後にずれる。
アジサイは車窓に触れるほど近く「停車中の電車とアジサイの景色は箱根ならではの1枚」(平田隆明さん)。特に大平台駅付近にアジサイが多いという。
シーズン中は「夜のあじさい号」を走らせ、沿線6カ所でライトアップを実施。徐行や停止を繰り返し、闇夜に照らされるアジサイを楽しんでもらう。急勾配の山あいをのぼれば「万華鏡の中を進むようで幻想的」(徳田千夏さん)。「雨の日は人が少なく風情もある」(山田さん)。
(1)夜のあじさい号は6月15日~7月2日(2)箱根湯本―強羅(3)片道400円(夜のあじさい号は+310円)(4)https://www.hakone-tozan.co.jp/sightseeing/
(岩手県一関市) 520ポイント
杉林縫って花の森林浴
15万平方メートルに及ぶ杉山に、4万株のアジサイが植えられている。幽玄ともいえる杉林に整備された約2キロの散策路を歩けば、アジサイを観賞しながら「花の森林浴」となる。「林の中を縫うようにのびる園路と、両側に咲くアジサイのボリュームある姿が魅力」(若林さん)。「木立の中のアジサイは圧巻。光と影に彩られたアジサイは入園者を飽きさせない」(和田博幸さん)。400種と品種も多く、早咲きから遅咲きまで日ごとに表情を変える。
「西では見られないエゾアジサイの美しさをお見逃しなく」(杉本誉晃さん)。休憩所があり、カートの貸し出しもある。
(1)開園は6月29日~7月28日(2)東北自動車道一関ICから車で約30分(3)1000円(4)https://www.ichitabi.jp/event/
(静岡県下田市) 450ポイント
背景に下田湾一望
かつて下田城があった山を生かした公園に、15万株のアジサイが咲く。小高い場所から下田湾や下田市街を一望でき、花越しに港を撮ればまるで絵はがきのような構図になる。「日本最大級のアジサイ園。どこから見ても絵になる絶景」(杉本さん)。斜面一面に咲く群生地などもあり、「見渡す限りと表現していいような花数の多さに圧倒される。周囲と一体となった景観も楽しめる」(若林さん)。
(1)あじさい祭は6月1~30日(2)伊豆急下田駅からバスで6分(3)入場無料(4)https://www.shimoda-city.info/event/ajisai.html
(茨城県北茨城市) 430ポイント
日本最多の1350品種
そば店主が運営するアジサイ園。3万平方メートルの敷地に2万8000株が咲く。杉林の中の遊歩道を進めば森林浴にもなる。「周囲に調和するよう植えられている」(川原田さん)。品種は1350と日本最多。遊歩道の両側に同じ品種を色別に咲かせるコーナーがあり「好みのアジサイを背景にした写真が撮れる」(和田さん)
今年は水不足で枯れた花があり、通常400円の入園料は無料。
(1)見ごろは6月中旬~7月上旬(2)JR常磐線磯原駅から車で10分(4)http://www.ajisainomori.com/
(東京都練馬区) 430ポイント
模型列車からスロー撮影を
1万株が植えられ、模型列車「あじさい号」が走る。「車窓からスローシャッターで撮影すれば、流れる色調や、ぶれた模様が美しい」(宮嶋さん)。「つる性のアジサイをからめたアーチも面白い」(若林さん)
ミストが噴出するエリアでは白い霧に浮かぶアジサイが楽しめる。ライトアップを行う6月の土日は17時以降の入園料が300円に。
(1)あじさい祭りは5月25日~6月24日(2)西武池袋線豊島園駅徒歩1分(3)1000円(4)http://www.toshimaen.co.jp/event/2019hydrangea-festival/index.html
(埼玉県幸手市) 305ポイント
斜面にあふれる白
桜の名所として知られるが、6月には1万6000株のアジサイが色づく。桜以外の花を咲かそうと住民らが増やし、斜面に咲く白いアジサイが初夏の名物に成長した。
「濃緑の桜並木とアジサイがみせる色のコントラストが絶妙」(宮嶋さん)。「並木を背景に咲く様子は、景色に奥行きが出てすてきな写真が撮れる」(和田さん)。
(1)あじさいまつりは6月1~30日(2)東武日光線幸手(さって)駅からバスで15分(3)入園無料(4)http://www.satte-k.com/event/ajisai/
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(神戸市) 680ポイント
350品種5万株が咲き乱れ
市街地からほど近い六甲山地の一角に設けられた植物園。日本有数のアジサイ園があり、350品種、約5万株が植えられる。アジサイは神戸市民の花。「姫のように美しい」が由来のヒメアジサイなどが一面に咲く。「日本で最も美しいアジサイ園」(大場秀章さん)と評価を集めた。「自然の地形や植生を生かした空間にアジサイが咲き乱れ、趣深い景観となっている」(若林芳樹さん)
イベント「森の中のあじさい散策」では、浴衣で入園した人はペアで入園料が無料になる。両側に青のアジサイがぎっしり咲く「あじさい坂」や、アナベルと呼ばれる白い花が咲く場所は婚礼写真を前撮りしたい人にも人気で、毎年多くのカップルが訪れる。「数も品種も多い。名前を確認しながら観察すれば、一通りのアジサイ通になれる」(山田隆彦さん)
(1)あじさい散策は6月15日~7月15日(2)神戸電鉄北鈴蘭台駅から無料バスで約10分(3)300円(4)https://www.kobe-park.or.jp/shinrin/
(奈良県大和郡山市) 605ポイント
森閑とした境内に青、紫、ピンク
7世紀建立とされる古刹。正式には金剛山寺という。1960年代半ばから植え始め、今や1万株。約2万5000平方メートルに及ぶ境内の至るところでアジサイが咲く。斜面に一斉に咲く庭園や自生種を集めた見本園が見どころで「アジサイ寺」と呼ばれるゆえんだ。起伏を生かしたつくりに定評があり「山を思わせる自然風の植栽が素晴らしい」(川原田邦彦さん)。
「森閑とした境内に青や紫、ピンクなど色とりどりのアジサイが咲き乱れ、古都の風情が楽しめる」(若林さん)。「アジサイの中にお地蔵様がいて心が和む。境内は広いので、ベストアングルが見つかるはず」(富本一幸さん)。
(1)アジサイ園は6月1日~7月10日(2)期間中はJR法隆寺駅と近鉄郡山駅から臨時バスで約20分(3)500円(4)http://www.yatadera.or.jp/
(奈良県桜井市) 600ポイント
花越しに伽藍 歴史味わう
四季折々の花が訪れる人を楽しませ「花の御寺(みてら)」と呼ばれている。境内のあちこちにアジサイが咲く。3000株と他の名所に比べ多くはないが、歴史ある登り廊下「登廊(のぼりろう)」や五重塔などと調和し、古刹のたたずまいに花を添えている。
「登廊から写すアジサイは静謐(せいひつ)な寺の風情が表現できる」(宮嶋康彦さん)。「花越しに伽藍(がらん)を撮影すると、長谷寺の代名詞『花の御寺』を実感する」(富本さん)。
(1)見ごろは6月中旬~7月中旬(2)近鉄長谷寺駅から徒歩15分(3)500円(4)http://www.hasedera.or.jp/
(長崎県佐世保市) 530ポイント
目玉は万華鏡のドーム
800メートルに及ぶ「あじさいロード」は斜面に花が咲き、ホテルや広場もアジサイに彩られる。バラ園でも有名だが「バラ花壇をしのぐ魅力がある」(大場さん)。
アジサイで作った直径3メートルのボールを鏡張りの部屋に置き万華鏡のように演出する「あじさいドーム」が目玉。「レジャーランド特有の華やかさが楽しめる」(若林さん)。あじさいロードはライトアップされ、違った表情を見せる。
(1)あじさい祭が6月1~30日(2)JRハウステンボス駅徒歩5分(3)1日パスポート7000円(4)https://www.huistenbosch.co.jp/
(京都府舞鶴市) 480ポイント
青や紫の「アジサイの海」
約2万平方メートルのアジサイ園を中心に約100種、10万本の花が咲く様子は「アジサイの海と呼ばれるほど」(杉本さん)。青や紫の花で埋め尽くされ、「ファインダーがアジサイでいっぱいになるスポットがある」(平田さん)。高台からは、アジサイ越しに舞鶴クレインブリッジと海を望める。「海の眺望を生かしながら撮影すると素晴らしい1枚になる」(和田さん)。
(1)アジサイまつりは6月12日~7月11日(2)JR東舞鶴駅からバスで約30分(3)500円(4)https://maizuru-hanamidori.com/ajisaien
(京都府宇治市) 390ポイント
山門の朱と美しい対比
1万株が杉木立の中に咲く。ツツジやシャクナゲでも知られる「花の寺」で、アジサイは特に人気だ。「木立の隙間を埋め尽くすようにアジサイが広がる。種類ごとに色がまとまり、美しい景観になっている」(若林さん)
「木陰のつややかなアジサイと、山門の朱のコントラストが印象的」(徳田さん)。
(1)あじさい園の開園は6月1日~7月7日(2)京阪三室戸駅から徒歩15分(3)800円(4)https://www.mimurotoji.com/
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ランキングの見方 数字は専門家の評価を点数化。(1)アジサイのイベントや見ごろの期間(2)アクセス(3)大人の見学料金(4)公式サイト。写真は東の1位は小田急電鉄、4位北茨城あじさいの森は山形和義デザイン事務所、そのほかは各施設や寺、観光協会提供。
調査の方法 専門家の協力で、写真映えするアジサイの名所を東日本、西日本でそれぞれ15リストアップ。10人の専門家に「写真映えする美しさ」「周囲の風景とマッチしている」などの観点で順位を付けてもらい、編集部で集計した。(天野由輝子が担当しました)
今週の専門家 ▽大場秀章(東京大学名誉教授)▽川原田邦彦(園芸研究家)▽杉本誉晃(日本アジサイ協会名誉会長)▽徳田千夏(ガーデンデザイナー)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽平田隆明(フラワーオークションジャパン取締役)▽宮嶋康彦(風景写真家)▽山田隆彦(日本植物友の会副会長)▽若林芳樹(「日本のアジサイ図鑑」共著者)▽和田博幸(日本花の会主幹研究員)=敬称略、五十音順
[NIKKEIプラス1 2019年5月25日付]
〈訂正〉5月26日5:40に公開した「雨にしっとり 写真映えするアジサイスポット12選」の記事中、「舞鶴自然文化公園」とあったのは「舞鶴自然文化園」の誤りでした。本文は訂正済みです。
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