働き方改革のカギは上司 仕事効率化する判断力磨こう
ダイバーシティ進化論(出口治明)
働き方改革関連法が4月に施行された。長時間労働の見直しは、ダイバーシティ(人材の多様性)経営で、まず取り組むべき女性の活躍推進を促す大きなカギ。残業時間の上限規制の強化などにより、職場がどう変わるか見守りたい。
働く人一人ひとりには改めて、仕事の生産性向上が求められる。そこで思い出すのが、日本生命時代の僕の上司、「課長の森口さん」こと森口昌司さんだ。森口さんはその後、同社の専務まで務められた。お兄さんは京大でも阪大でも名誉教授となった経済学者の森口親司さんだ。
こう書くと、どこか堅物な上司像をイメージする方がいるかもしれない。ところがどっこい、彼はとにかくマージャン好き。ジャン荘に行くために夜はさっさと引き揚げ、朝は遅めに出社。昼間は居眠りをしているように見えて時折、ビシっと実に的を射た指摘をされる。その働き方は、まさに生産性が高かった。
彼は部下の育成もうまかった。例えば、僕らに仕事を命じておいてジャン荘から「メンバーが足りないから来てくれ」と連絡してくる。指示された仕事をしていると答えると、「君なら、明日の朝少し早く出てくればできるだろう」と説く。そう言われて、やってみると、さんざんに負けて早めに出た翌朝、できっこないと思っていた仕事が確かに短時間でできた。
あるとき、他部署の偉い人が森口さんのところに組織改編について話したいとやってきた。先方は、僕に外せという。だが、森口さんは「彼が一番分かっている男だ」と遮り、そのまま同席して協議に加わるよう取りなしてくれた。期待をかけて任せる。それだけ信頼を寄せてくれていると分かり、とてもうれしかった。改めて、この人についていこうと思った瞬間だ。
マージャンはもちろん強く、ゴルフもシングル。そんな森口さんは、なぜあれだけ生産性の高い働き方ができたのか。改めて考えると、彼の確かな判断力が大きかったのだと思う。
仕事で一番まずいのは、課題に対し優柔不断な態度を取ること。どれだけ考えても出ない答えは出ない。悩むだけ時間のムダだ。仮の結論を置いた方が何をすべきかが早く見えてくる。職場の生産性向上に向け、リーダーは特に判断力を磨きたい。それには日ごろから読書などで情報のインプットを増やすこと。判断の素地を常に豊かにしよう。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2019年5月20日付]
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