自分はスクラムハーフ役 観戦後は「語りたくなる」
衆院議員・小泉進次郎さん
プレーヤーとしての経験はないが、ラグビー観戦は日常の一部だ。関東学院大学に在学中、黄金期にあったラグビー部の活躍に胸が躍った。その心のうずみ火を、前回W杯で日本代表が強豪・南アフリカを破った試合が再び燃え上がらせた。
――南アフリカ戦、いま改めて感想を。
「一言でいうと、涙。ほんとに、やられた。ひとりで生中継を見ていたんだけど、終わった後にあんなに余韻が残って涙があふれたことはなかった。しかも4年後に日本にW杯が来ることは決まっていたでしょ。ホスト国のひとりとして、自分の言葉でラグビーを語れる男になっておきたいと思った。関東学院時代から魅力のあるスポーツだなというのはあったけど、完全にスイッチが入りましたね。仲間たちと意識してゲームを見に行くようになりました」
――在学前後の10年間で母校は大学選手権優勝6回、準優勝4回。どう見ていましたか。
「『プロ予備軍』かというくらいすごくレベルが高かった。ラグビー関係者以外にもその名がとどろいていたのが当時の春口広監督。それとブルーのジャージーが関東学院の代名詞だった。ラグビーとの距離感が近いことの根っこには、やはり関東学院が強かったことが間違いなくある」
スクラムだけ見ていても楽しい
――競技として魅力を感じる点は。
「原始的であることと、緻密であることの両面じゃないですか。理屈抜きにぶつかっていく。前に進む。血がわきたつというかね、理屈を超えてます。この原始的なところで魂が震えなかったら、たぶんその人と酒を飲んでも楽しくないだろうなと思う」
「緻密さの典型はスクラム。足首の角度から腰の高さ、一人ひとりの体格の合わせ方まで、まるでパズルを合わせるように組む。審判との相性まで事前に分析する。どこからを反則と判断するか、みたいな。どう組み、どう組ませないかという駆け引き。スクラムだけ見ていても、楽しいですよね」
――五輪と違って全国で試合があるラグビーW杯は地方創生にも効果がありませんか。
「(試合会場となる)釜石鵜住居復興スタジアム(岩手県釜石市)に大勢が出かけていると聞いてますけど、東日本大震災からの復興にとって、まさに理屈を超えた力を与えているのは間違いないですよね。スポーツが街の核のひとつになると、若者らプレーを楽しむ人も、それを見る多くの人も力を与えられる。これはすごく大きい」
「昨年9月にニュージーランド(NZ)を訪ねたとき、(元日本代表ヘッドコーチの)ジョン・カーワンと会ってね。彼がおすすめの旅行先を聞かれたときはいつも『日本、とくに地方がすばらしい』と答えていると聞いて、うれしかった。元オールブラックス(NZ代表)である彼が、そういう思いをもってくれているのは両国の大きな財産だね」
――世界との比較で日本のラグビーをどうみていますか。
「ラグビーは体格差が決定的にものをいうじゃないですか。そのスポーツで日本がここまでやれているのは、やっぱり驚異的だと思うね。だから、何かラグビーと日本人には、特別な親和性があるように思いません? 武道や華道、茶道のように『ラグビー道』に近いものがあるように感じますね。日本人が自然と愛してしまうところがある気がする。選手も武士のようなたたずまいをもっていて、もしかしたら現代で武士道を可視化している一つかもしれないね」
――自分もプレーしたいとは。
「無理です。あれは見ていた方がいい。僕のように大きくなってからラグビーを見るようになった人は、頭の中にまず恐怖が浮かぶと思う。子どものころに出合っていたら、やっていたかもしれない」
「トライは自分じゃなくていい」
――気になるポジションはありますか。
「(密集戦から最初のパスを出す)スクラムハーフ(SH)が今の自分の役割に似ていると思うときがあります。最後にトライをするのは自分じゃなくていい。最善の道で目標にたどり着くためにボールをどこに放ればいいのか瞬時に判断する。トライには自分がボールを運び切ったという喜びがあると思うけど、パスしたボールを運んでもらったり、トライした人の喜びを見たりする楽しさを考えるとね、SHって魅力的だなあと思いますね」
「ラグビーは15人のだれが欠けてもいけないし、みんなが同じことをやってはいけない。一人ひとりの役割を果たすことで、最後に到達できるところがある。これって、仕事でも、プライベートでも、いろんなことに通じることだと思う」
――父の小泉純一郎元首相とラグビーについて話すことは。
「ほとんどないですね。うちのオヤジはあんまりラグビーの話はしないなあ。子どもの頃から、野球のことはいっぱい話してきたけど。(南ア戦の勝利についても)話さなかったですね。たぶん家族の中では、僕が一番、スポーツを垣根なく見てるんじゃないかな」
――W杯にのぞむ日本代表に期待することは。
「ベストいくつに進んでほしいといったことは全くないですね。前回大会で見せた『ジャパンウェイ』が磨き上げられた『真のジャパンウェイ』『ジャパンウェイ・ネクスト』みたいなものを見せてもらいたい」
「多くの人に世界のラグビーを日本で見られる幸せを感じてもらいたい。足を運んで体験してほしい。そうすると、語りたくなるから、その語る楽しみも味わってほしい。ラグビーを一度もやったことがない僕が、こんなに語りたくなる。この魅力って何なんだろう」
1981年(昭和56年)4月、神奈川県横須賀市生まれ。関東学院六浦高校では野球部で活躍。2004年関東学院大経済学部卒。06年米コロンビア大院修了(政治学修士号取得)。09年の衆院選に神奈川11区から出馬し初当選。現在4期目。復興大臣政務官や自民党農林部会長を歴任し、現在は党厚労部会長。
(聞き手 天野豊文、竹内悠介 撮影 瀬口蔵弘)
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