合羽橋「台所番長」が斬る パン切り包丁の逸品5選
合羽橋の台所番長が斬る! いまどきの料理道具を徹底比較
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、最近のパンブームで種類が豊富になったパン切り包丁を取り上げる。なかでも高価格帯で人気の5本を比較検証した。
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こんにちは、飯田結太です。日本ではいろいろな種類のパンを買えます。ドイツのハードブレッドから柔らかい食パンまで、世界中のパンが食べられるのは世界でもそうないのではないでしょうか。また、ホームベーカリーなども人気で、自宅でパンを作る人も増えています。そんなパンの人気を受けてパン切り包丁も種類豊富になりました。パン切り包丁は2000円前後で入手できるものが一般的ですが、今回は、個性的で、高額なのに人気がある5本を比較検証します。
波刃の粗さの違いと平刃がポイント
パン切り包丁の特徴は、刃渡りが長く、刃はギザギザの波刃。最近は、波刃と通常の包丁と同じ平刃を組み合わせたタイプが増加中です。さらに、波刃の粗さを先端とアゴの部分で変えているタイプもあります。これらは、パンに刃を入れるときの入れやすさと、押したり引いたりして切っていく、パン特有の切り方をスムーズにするための形状。面白いのは、この刃の組み合わせ方が各社まったく違うこと。特に個性的な5本を紹介します。
デザイン雑誌から火がついた包丁
男性向けの雑誌で紹介され、瞬く間にヒット商品となった、庖丁工房タダフサの「パン切り」。一時は入手困難になったほどでした。庖丁工房タダフサは、もともと業務用の包丁メーカー。それまで波刃だけのものが主流だったパン切り包丁に、平刃を加えて作り上げ、話題になりました。持ち手は栗の木を使用するなど高級感もあり、高級パン切り包丁のさきがけ的存在です。
料理にこだわるセミプロ仕様
ヨーロッパで人気が出て、日本で知られるようになった包丁メーカー、吉田金属工業。同社の「GLOBAL-IST」シリーズは、数ある同社の商品のなかで、プロではない、料理にこだわりたい人のために作ったシリーズで、そのパン切り包丁は、一般的には片刃で作られるパン切り包丁を両刃の波刃で作ったユニークな商品。しかも手作業で1本ずつ研いでいるこだわりよう。両刃にすることで、斜めに傾きがちな切り口がまっすぐになるのが特徴。また、ほかの4本に比べて刃渡りが短めです。
アウトドアの定番、ロングセラー
ナイフといえばビクトリノックスと代名詞になっているほどのスイスの老舗メーカー。柄がプラスチック製なので、ほかの4本に比べると高級感は薄れるのですが、切れ味は確かなもの。特徴は緩やかな波刃。
ユニークなデザインで話題
包丁は、一般家庭用と業務用で形が異なることが多いのですが、アーネストのパン切り包丁「つばめのパンナイフ」は、業務用ではよく見られる柄と刃が平行ではないデザインを採用し話題になりました。
この形状には大きな意味があります。刃の部分が持ち手よりも下の位置にあるため、まな板に食材を載せて切るときに柄を握った手が当たらずにスムーズに切っていくことができるのです。1日のうちに数え切れないほど包丁を使う業務用ならではのアイデアです。
さらに面白いのは、波刃が先端とアゴ部分だけで、真ん中は平刃になっていること。これは、パンの切り方を調査してできた形。パンに先端から入れて切り始める人、アゴ部分からパンに入れて切る人がいることから、両方に波刃をつけたのだそうです。
3種類の刃と山形デザイン
サンクラフトのパン切り包丁「せせらぎ」は、小さな波刃と粗刃、平刃の3種類の刃を持つ包丁。刃全体の形状が緩やかな丘のように中心がわずかに盛り上がっているのが特徴。角度がついていることで、引き切りも押し切りも力をさほど入れずにスムーズにできるのです。さらに、先端の平刃が鋭く研いであるところも珍しい。
次のページからいよいよ検証です。まずはソフトブレッドの切れ味から。
焼きたてソフト食パンは意外と切りにくい?
さっそく、食パンから検証します。今回は焼きたてを調達。じつは、焼きたての食パンは、周りがパリッとしているのに、中はとても軟らかくて、スライスするのが難しいのです。5本の切れ味を検証した結果、このハードルをスムーズに越えられたのは、サンクラフトの包丁でした。
1位:サンクラフトはパンへの入りがスムーズ
サンクラフトは持ち手がとても握りやすいのが第一印象。刃をパンに当てて力を入れようと思うまもなく、パリパリ、ザクッという音もまったくなく、スーッと刃がパンに入っていったことに感動しました。
2位:ビクトリノックスはロングセラーならではの安定感
持ち手がプラスチックなので、見た目は他のものより劣るのですが、切れ味は冴えています。持ち手に指をかけられるようになっているので力を入れるときにも負担が少ない。サンクラフト同様にスーッとパンに入っていきました。
3位:アーネストは断面がきれい
断面の毛羽立ちが少なくてきれいだったのはアーネストでした。刃はすんなりとパンに入っていき、その入り方が手に負担がなくて気持ちいいくらい。刃が滑らないところも優秀です。
4位:庖丁工房タダフサは入りの滑りやすさが残念
庖丁工房タダフサは、パンに入るときに少し滑るので力が必要です。さらに、平刃と波刃の境目が引っかかってしまったのが残念。波刃が短いので、刃の入れ方にコツが必要ですね。
5位:吉田金属工業は刃の引っかかりで毛羽立った
意外だったのは吉田金属工業の「GLOBAL-IST」です。持った感触はズッシリと重みがあって安定しているのですが、波刃が緩やか過ぎるのでしょうか、刃がひっかかり、音もザッザッとうるさい。断面は毛羽立ってしまいました。ソフト系パンには向いていないのかもしれません。
次はハードブレッドで検証します。
ハードブレッドは波刃の角度が重要
ハードブレッドをスライスするときは、ソフトブレッドほど力の入れ具合に気をつける必要はありませんが、刃の入れ方によっては、まな板の周囲にパンくずが飛び散るので、掃除が大変。また、パンの表面が硬いので切るたびに亀裂が入ってしまうこと。これらのポイントをクリアしたのは、ビクトリノックスでした。
1位:ビクトリノックスは圧倒的なスムーズさ
5本の中で刃の先端まで波刃になっていたのはビクトリノックスだけでした。この先端の波刃がハードブレッドに最適。どんなに硬いパンでもスーッとナイフが刺さるのでスライスしやすいのです。そのスムーズさは圧倒的でした。
2位:サンクラフトは万能選手
食パンで1位だったサンクラフトはハードブレッドでもスムーズな万能選手でした。ビクトリノックス同様に、持ち手の安定感が切りやすさの大きなポイント。力が入れやすく、波刃の粗い部分と細かい部分の配分もちょうどいいようです。
3位:吉田金属工業の両刃はハードブレッド向き
吉田金属工業のGLOBAL-ISTは食パンではあまりいい結果が出ませんでしたが、ハードブレッドには向いているようです。パンくずは飛び散ったのですが、断面はきれいでした。
4位:アーネストは力が必要
食パンのときに比べて、ハードブレッドを切るときには力をかけないと刃が入っていきませんでした。
5位:庖丁工房タダフサは滑りやすくてハードブレッドには不向き
とにかく滑って切りにくい。波刃が先端に少ししかないことが、かえってハードブレッドを切りにくくしているようにも感じました。また、刃に鋭さがないので入っていかないのも残念。
結果的に、食パンなどのソフト系にはサンクラフトが最適。ハードブレッドにはビクトリノックスがいいでしょう。総合的には、サンクラフトが優秀。波刃がこまかいので、どんなタイプのパンにも刃が入りやすいのだと思います。庖丁工房タダフサは残念ですね。刃付けがもう少し鋭かったら違う結果になっていたかもしれません。(談)
ソフトブレッド部門優勝:サンクラフト「せせらぎ」
ハードブレッド部門優勝:ビクトリノックス「ブレッドナイフSP」
総合優勝:サンクラフト「せせらぎ」
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
[日経トレンディネット 2019年2月7日付の記事を再構成]
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