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奥山さんは女子栄養大学との共同研究で、日常的に飲酒習慣のある40~60代の健康な成人男性7人を対象にした試験を行っている。その結果、同じ対象者の酢酸菌酵素を摂取しない状態に比べ、摂取した場合は体内の血中アルコール濃度が有意に低下し、30%程度抑えられることが分かった(図2)。

同じ内容の食事をした2時間後、酢酸菌酵素を配合したカプセルと、アルコール含有飲料(体重当たり0.5gのアルコールを含む)を摂取してもらい、摂取前と摂取後30分、60分、120分、180分の呼気アルコール濃度と血中アルコール濃度を測定した。さらに同じ対象者で別の日に、酢酸菌酵素を含まないカプセルを摂取し、同様に血中アルコール濃度を測定した。(女子栄養大学・田中明教授との共同研究、日本食品科学工学会第62回大会(2015年)で発表したデータ)

前半戦と後半戦で、2回に分けて飲むという手も

では、これを「いつ飲めば」、酢酸菌酵素の恩恵をより多く享受できる可能性が高いのだろうか。

「要は、胃に食物が停滞しやすい条件で、アルコールと酢酸菌酵素がよく混ざるようにするとよいと考えられます」と奥山さんは話す。胃が空っぽの状態より、胃に食べ物、特に油分があったほうがサプリメントの滞留時間が長くなる。つまり、アルコールと接する時間が長くなるわけだ。

奥山さんの研究データから、酢酸菌酵素を飲んでから3時間くらい効果が続くと考えられる。長い飲み会のときなどは、最初の乾杯時と、後半戦の2回にわたって飲むのも手だろう。

注意したいのは、このサプリメントはカラダの負担を軽減するものであって、このサプリメントを飲めばアルコールを飲めない人が飲めるようになったり、際限なく飲めるようになるわけではない。サプリメントは「あくまでも補助」ということを肝に銘じておきたい。

お酢を飲めば酢酸菌酵素を体内に取り込めるのでは?

最後に、話を聞いているうちに浮かんだ疑問を奥山さんにぶつけてみた。アルコールに酢酸菌を入れてお酢を作るのだから、お酢を飲めば酢酸菌酵素を体内に取り込めて、理屈的には同じでは?

「残念ながら、市販の酢では基本的に酢酸菌酵素は摂取できません。確かにお酢は、昔から貴族の間で薬として珍重されてきました。江戸時代の文献『随息居飲食譜』を見ると、お酢はお酒の酔いざましによいという記述も見られます。また、イタリアでも、お酒を飲む際、酔いざめがいいようにと、バルサミコ酢を一緒にとる人がいるそうです。ただし、ろ過や加熱殺菌されていない生のにごり酢なら酢酸菌酵素が残っており、多少なりとも期待できる可能性がありますが、市販の酢は加熱・ろ過によって酢酸菌酵素を取り除いています」(奥山さん)

なるほど、残念だが、普通に台所にあるお酢を飲んだからといって、酢酸菌酵素を摂取できるわけではないのだ。

また、アルコールを目に見えるレベルで分解するには、大量の酢酸菌酵素が必要になる。奥山さんは試行錯誤を続け、ようやく酢酸菌酵素を高濃度に含む独自のにごり酢を大量生産する方法を確立したという。サプリメント「よいとき」に含まれるのは、にごり酢を1000倍に濃縮したものだそうだ。

◇  ◇  ◇

最初は、酢酸菌酵素と言われても何のことか分からなかったが、よく聞くと、当コラムでおなじみのアルコール脱水素酵素、そしてアルデヒド脱水素酵素そのものだったとは驚きであった。

だが、いくらそうだからと言って、酢酸菌は「魔法の菌」ではない。重ねてになるが、サプリメントはあくまで「補助」。基本は適量を守ることが肝臓にとっては一番である。サプリメントに頼り過ぎることのない酒ライフを送ってほしい。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト=葉石かおり)

[日経Gooday2019年4月5日付記事を再構成]

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