二日酔い・悪酔い防止には つまみの「食べ順」大事
酒好き医師が教える飲み会対策(1)
この季節、お酒を飲む機会が増える人も多いですよね。飲み会を楽しむために重要なのが、悪酔いしないこと、そして二日酔いしないこと。「飲み過ぎはダメ」と頭では分かっていても、ついやらかしてしまう人にお勧めしたいのが、お酒と一緒に口にする「つまみ」の活用です。
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こんにちは。酒ジャーナリストの葉石かおりと申します。新年会などでお酒を飲む機会が多いこの時期。みなさん、楽しくお酒を飲む準備はできていますか?
この度、『酒好き医師が教える最高の飲み方』という本を出版しました。「どうせ医者なんて、酒を飲み過ぎるなとしか言わないだろう」と思う読者もいるかもしれませんが、世の中には「自分も酒好き」という医師がいます。そんな方々に、私が酒飲みを代表して「健康的に飲み続ける方法」を聞き、まとめたのがこの本です。その中から、新年会のときに役立つお酒に関する知識をここでは紹介したいと思います。
今回は、「二日酔い・悪酔いを防ぐつまみの食べ方」。楽しい宴会を台無しにしないためにも、また翌日につらさを持ち越さないためにも、つまみをうまく選ぶ方法をお伝えしましょう。
すきっ腹で飲むと確実に「二日酔いコース」
「本物の左党は塩を肴に酒を飲む」と昔からいわれています。酒豪にはつまみはいらない、塩をなめるだけでいい、というのです。
でも実際、何も食べないでお酒だけ飲むと、どうなるでしょう?
私の場合、翌日に吐き気を伴った激しい二日酔いに見舞われることがほとんど。同じように、すきっ腹でお酒を飲んで痛い目にあった読者の方も多いのでは。
では、悪酔いや二日酔いを防ぐためには、何を食べればいいのでしょうか。何かを食べたほうがいいのは分かりますが、具体的にどんなメニューを、どのようなタイミングで食べると効果があるのでしょうか?
胃や腸などの消化器系のメカニズムに詳しい、東海大学医学部内科学系消化器内科学教授の松嶋成志さんは「二日酔い、悪酔いを防ぐのに、気を付けなくてはならないのは、アルコールの血中濃度を急激にアップさせないことです」と言います。
アルコール血中濃度が高くなるということは、酔いが回るということ。これが悪酔いの原因です。お酒に強くない人なら、気持ち悪くなったりフラフラしたりします。さらに、血中濃度が高くなってくると、嘔吐(おうと)したり、まともに立てなくなったりします。
「アルコールは、胃では5%しか吸収されません。残りの95%は小腸で吸収されます。小腸の内壁には腸絨毛(ちょうじゅうもう)と呼ばれる突起があり、平均的な体型の成人男性の場合、その面積はテニスコート一面とほぼ同じともいわれています。つまり、胃より表面積が大きな小腸のほうがアルコールの吸収量が多く、吸収速度が速いわけです」(松嶋さん)
アルコールが胃から小腸へ移動すると、一気に吸収され、あっという間にアルコール血中濃度が上がってしまいます。悪酔いを防ぐためには、「いかに胃でのアルコール滞留時間を長くし、小腸へ送る時間を遅くするかがカギになります」と松嶋さんは説明します。
すきっ腹で飲んで痛い目にあったのは、胃の中が空っぽだったことでアルコールがすぐに小腸に送られ、吸収されてアルコール血中濃度が上昇したためだったのです。
それでは、何が胃の中に入っていると、アルコールが小腸に送られる時間を遅くすることができるのでしょうか? 松嶋さんによると、それは「油」だそうです。
意外!? カルパッチョや唐揚げが効果的
胃の滞留時間は、食べ物によってかなり異なります。例えば、米飯(100g)は2時間15分で消化するのに対し、ビーフステーキ(100g)は比較的長く、3時間15分程度かかります。そして、油は最も長く滞留し、バター(50g)は12時間もかかるのです。
「油分は胃での吸収時間がとても長い。消化管ホルモンの一種であるCCK(コレシストキニン)などが働き、胃の出口となる幽門を閉め、胃の中を撹拌(かくはん)する働きがあるのです」(松嶋さん)
忘年会では「オイルファースト」を心がけましょう。もちろん、油そのものをとるのではなく、「刺し身にオリーブオイルをかけたカルパッチョ、マヨネーズを使ったポテトサラダを最初に食べるとよいでしょう」と松嶋さんは言う。このほか、唐揚げやフライドポテトも、最初に食べるともたれそうですが、効果があるそうです。
そういえば、「飲む前に牛乳を飲むと、胃に膜が張って悪酔いしない」と言って宴会の前に牛乳を飲んでいる人がいましたが、これは効果があるのでしょうか?
「牛乳には4%弱ほどの脂肪分が含まれていますから、多少なりとも効果は期待できます。また、牛乳にはたんぱく質が多く含まれているので、胃粘膜の保護効果は期待できます。少量では胃全体に膜を張るまではいきませんが、ある程度の効果はあるでしょう」と松嶋さんは言う。
酔ったら肝臓の代謝を助ける成分を
ここまでは、血中アルコール濃度を急激に上げないために、飲み会の始めにとっておくといい食べ物について説明してきました。それでは、酒席で杯が進んだ後、血中アルコール濃度をできるだけ早く下げ、悪酔いや二日酔いにつながらないようにするために、何かできることはないのでしょうか。
松嶋さんによると、「お酒を飲んで既に上昇してしまったアルコール血中濃度は、すぐには下がりません。ただ、肝臓での代謝を助ける成分は摂取したほうがいいでしょう」という。例えば、タコやイカに含まれるタウリン、ひまわりの種や大豆などに含まれるL-システイン、ごまなどに含まれるセサミンなどだそうです。
「もちろん、水分の摂取も必須です。アルコールの利尿作用によって尿量が増え、脱水症状に陥りやすいため、それを防ぐためにも、水分は飲んだ後に限らず、お酒を飲んでいる最中にも飲むようにしましょう。飲んだ後は、体内の水分維持効果がある電解質が含まれる飲料が効果的です」(松嶋さん)
つまみに何を食べるのか、どのタイミングで食べるのかについて工夫することで、「もうしばらく酒を飲みたくない」と後悔するまでの二日酔いを防ぐことができます。宴席が増えるこの時期にこそ実践して、この季節を乗り切りましょう。
ただし、アルコールの分解能力は人によってそれぞれ限界があり、それを超えればどんなにつまみ選びに気を付けても必ず二日酔いになります。飲みすぎにはくれぐれも注意しましょう。
エッセイスト・酒ジャーナリスト。日本大学文理学部独文学科卒業。全国の日本酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核に講演、酒肴のレシピ提案も行う。2015年一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション設立。世界に通用する酒のプロ、サケ・エキスパートの育成に励み、各地で日本酒イベントをプロデュースする。
[日経Gooday 2017年12月15日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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