「葉石さんはお酢の作り方をご存じですか? お酢の主原料はアルコールです。バルサミコ酢がワインから作られるように、お酢はお酒から作られるのです。そして、アルコールからお酢の成分である酢酸を作る際に菌の力を借りるのですが、その菌こそが酢酸菌です。酢酸菌の周りに酢酸菌酵素がついていて、これがアルコールを酢酸に変える働きがあるのですよ」と奥山さんは話してくれた。

本コラムをご愛読いただいている左党なら、この仕組みに既視感があるのではないだろうか。そう、これまで何度となく解説してきた、体内でのアルコールの分解の仕組みに近い(図1)。
「耳タコ」かもしれないが、少し解説すると、体内に入ったアルコールは、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH1B)によりアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により酢酸に分解される。
奥山さんに「肝臓がアルコールを分解する仕組みに似ていますね」と話すと、奥山さんは笑いながらこう説明してくれた。
「先ほど酢酸菌酵素が、アルコールを酢酸に変えるとお話ししましたが、この酢酸菌酵素というのはアルコール脱水素酵素(ADH1B)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)そのものなのです。アルコールから酢を作るのも、体内でアルコールを分解するのも、実は同じ仕組みなのですよ」(奥山さん)
なんと! これは驚きである。私はこれまで幾度となく、体内でのアルコールの分解プロセスについて解説してきたが、ADH1BやALDH2によって分解されるというのは、あくまで肝臓の中だけの話で、食卓に並んでいるお酢を製造する過程と同じだとは思いもよらなかった。
そして、キユーピーが発売しているサプリメント「飲む人のための『よいとき』」の中身は酢酸菌酵素、つまりアルコール脱水素酵素(ADH1B)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)である。確かに、商品パッケージの背面にある「原材料名」の欄を見ると、しっかり「アルコール脱水素酵素」「アルデヒド脱水素酵素」とある。
何という発想の転換。これまでウコンや肝臓水解物など、「肝臓がんばれ成分」を主体にした健康食品は見てきたが、「外から2つの酵素を足す」というものは初。実に斬新である。
そもそも、奥山さんが酢酸菌酵素を使ったサプリを開発したきっかけは、キユーピーで酢を製造するプロセスから閃(ひらめ)いたからなのだそうだ。
「マヨネーズを作る際、材料としてお酢を使います。キユーピーでは50年以上前からマヨネーズに使用するお酢を自社で製造しています。アルコールに酢酸菌を加えるとお酢になるのを見ているうち、この酢酸菌の力を応用できないかと思ったのがきっかけです」(奥山さん)
血中アルコール濃度が30%程度抑えられた
奥山さんによると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素と、アルデヒド脱水素酵素が存在していて、酢酸菌とアルコールが接触することで、アルコールが酢酸に変化するそうだ。実際、目に見えない分子レベルで調べると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素が並んで存在していて、1秒足らずの間にアルコールを酢酸に変えているのがよく分かるという。

「酢酸菌が持つ2つの酵素のうち、特に活性が強いのがアルデヒド脱水素酵素です。アルコールを酢酸に変える微生物は他にもいますが、酢酸菌の力は断トツです。酢酸菌は自分の周りに抗菌性の高い酢酸を作ることで自分のテリトリーを作って他の微生物から身を守り、何千年もの間、生き残ってきたのです」(奥山さん)
酢酸菌を語る奥山さんの目が、心なしか潤んでいるように見えた。ここまで思われたら、酢酸菌も本望であろう。
ここまでの説明で、酢酸菌酵素がアルコールを酢酸に変える能力が高いことはよく分かった。では、実際の効果はどうなのだろうか。