飲む前に飲む「助っ人」に新顔 酢酸菌酵素の実力

おいしいお酒はたくさん飲みたいものだが、体がついてこない…。そんな左党の強力な味方になってくれるのが「飲む前に飲む助っ人」。ウコンや肝臓水解物、あるいは漢方薬などが一般的だが、それらのいずれでもない「酢酸菌酵素」という新たな選択肢があるという。酒ジャーナリストの葉石かおりが、この酢酸菌酵素を含むサプリを商品化したキユーピー研究開発本部の奥山洋平さんを直撃して話を聞いた。
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「あ~、もっと多くお酒が楽しめたらな~。それも二日酔いなしで」
こんな都合がいいことを考えているのは、きっと私だけではないはずだ。おいしいお酒は、世の中に星の数ほどある。健康さえ害さなければ、飲める量は多ければ多いほどいい。
しかし残念なことに肝臓でのアルコール処理能力には限界がある。また、長年にわたって肝臓を酷使すると、肝炎や肝硬変といった重篤な病気に罹患する確率が高くなる。
病気のリスクを理解しているけど、おいしいお酒をたっくさん飲みたい。でもつらい二日酔いはイヤ、そして肝臓が傷めつけられて病気になるのはもっとイヤ! こんなときに左党が頼るのが、アルコール分解で働き続ける肝臓をサポートしてくれる「助っ人」だ。
飲む前に飲む「助っ人」といったら、一般にウコンや肝臓水解物を想像する人が多いだろう。このほか、五苓散などの漢方薬も知られている。ところが、これらに該当しない「助っ人」があるという。それが「酢酸菌酵素」だ。数年前からサプリメントとして販売されている。
しかし、「酢酸菌酵素」と言われても、多くの人はご存じないだろう。私も最初に聞いたときは、何のことかさっぱり分からなかった。

酢酸菌酵素の力に着目し、サプリメントにしてしまった人、それがキユーピー研究開発本部の奥山洋平さんである。キユーピーといえば、言わずと知れたマヨネーズやドレッシングで知られる有名企業。なぜキユーピーがお酒のサプリメントを? そして本当に効くの? と思われる方が多いだろう。
実は、このサプリ、私の周りでも日本酒や本格焼酎の蔵元を中心に「箱買いして飲んでいる」という方がいる。この謎のサプリ、いったいいかなる存在なのか。その中身と作用の仕組みを確認せねばなるまい。今回は、キユーピーの奥山さんを直撃して詳しい話を聞いた。
体内のアルコール分解と、お酢の製造プロセスは同じだった!?
奥山さん、そもそも、酢酸菌、そして酢酸菌酵素って何なのでしょう? そして、お酒との関係は?
「葉石さんはお酢の作り方をご存じですか? お酢の主原料はアルコールです。バルサミコ酢がワインから作られるように、お酢はお酒から作られるのです。そして、アルコールからお酢の成分である酢酸を作る際に菌の力を借りるのですが、その菌こそが酢酸菌です。酢酸菌の周りに酢酸菌酵素がついていて、これがアルコールを酢酸に変える働きがあるのですよ」と奥山さんは話してくれた。

本コラムをご愛読いただいている左党なら、この仕組みに既視感があるのではないだろうか。そう、これまで何度となく解説してきた、体内でのアルコールの分解の仕組みに近い(図1)。
「耳タコ」かもしれないが、少し解説すると、体内に入ったアルコールは、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH1B)によりアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により酢酸に分解される。
奥山さんに「肝臓がアルコールを分解する仕組みに似ていますね」と話すと、奥山さんは笑いながらこう説明してくれた。
「先ほど酢酸菌酵素が、アルコールを酢酸に変えるとお話ししましたが、この酢酸菌酵素というのはアルコール脱水素酵素(ADH1B)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)そのものなのです。アルコールから酢を作るのも、体内でアルコールを分解するのも、実は同じ仕組みなのですよ」(奥山さん)
なんと! これは驚きである。私はこれまで幾度となく、体内でのアルコールの分解プロセスについて解説してきたが、ADH1BやALDH2によって分解されるというのは、あくまで肝臓の中だけの話で、食卓に並んでいるお酢を製造する過程と同じだとは思いもよらなかった。
そして、キユーピーが発売しているサプリメント「飲む人のための『よいとき』」の中身は酢酸菌酵素、つまりアルコール脱水素酵素(ADH1B)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)である。確かに、商品パッケージの背面にある「原材料名」の欄を見ると、しっかり「アルコール脱水素酵素」「アルデヒド脱水素酵素」とある。
何という発想の転換。これまでウコンや肝臓水解物など、「肝臓がんばれ成分」を主体にした健康食品は見てきたが、「外から2つの酵素を足す」というものは初。実に斬新である。
そもそも、奥山さんが酢酸菌酵素を使ったサプリを開発したきっかけは、キユーピーで酢を製造するプロセスから閃(ひらめ)いたからなのだそうだ。
「マヨネーズを作る際、材料としてお酢を使います。キユーピーでは50年以上前からマヨネーズに使用するお酢を自社で製造しています。アルコールに酢酸菌を加えるとお酢になるのを見ているうち、この酢酸菌の力を応用できないかと思ったのがきっかけです」(奥山さん)
血中アルコール濃度が30%程度抑えられた
奥山さんによると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素と、アルデヒド脱水素酵素が存在していて、酢酸菌とアルコールが接触することで、アルコールが酢酸に変化するそうだ。実際、目に見えない分子レベルで調べると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素が並んで存在していて、1秒足らずの間にアルコールを酢酸に変えているのがよく分かるという。

「酢酸菌が持つ2つの酵素のうち、特に活性が強いのがアルデヒド脱水素酵素です。アルコールを酢酸に変える微生物は他にもいますが、酢酸菌の力は断トツです。酢酸菌は自分の周りに抗菌性の高い酢酸を作ることで自分のテリトリーを作って他の微生物から身を守り、何千年もの間、生き残ってきたのです」(奥山さん)
酢酸菌を語る奥山さんの目が、心なしか潤んでいるように見えた。ここまで思われたら、酢酸菌も本望であろう。
ここまでの説明で、酢酸菌酵素がアルコールを酢酸に変える能力が高いことはよく分かった。では、実際の効果はどうなのだろうか。
奥山さんは女子栄養大学との共同研究で、日常的に飲酒習慣のある40~60代の健康な成人男性7人を対象にした試験を行っている。その結果、同じ対象者の酢酸菌酵素を摂取しない状態に比べ、摂取した場合は体内の血中アルコール濃度が有意に低下し、30%程度抑えられることが分かった(図2)。

前半戦と後半戦で、2回に分けて飲むという手も
では、これを「いつ飲めば」、酢酸菌酵素の恩恵をより多く享受できる可能性が高いのだろうか。
「要は、胃に食物が停滞しやすい条件で、アルコールと酢酸菌酵素がよく混ざるようにするとよいと考えられます」と奥山さんは話す。胃が空っぽの状態より、胃に食べ物、特に油分があったほうがサプリメントの滞留時間が長くなる。つまり、アルコールと接する時間が長くなるわけだ。
奥山さんの研究データから、酢酸菌酵素を飲んでから3時間くらい効果が続くと考えられる。長い飲み会のときなどは、最初の乾杯時と、後半戦の2回にわたって飲むのも手だろう。
注意したいのは、このサプリメントはカラダの負担を軽減するものであって、このサプリメントを飲めばアルコールを飲めない人が飲めるようになったり、際限なく飲めるようになるわけではない。サプリメントは「あくまでも補助」ということを肝に銘じておきたい。
お酢を飲めば酢酸菌酵素を体内に取り込めるのでは?
最後に、話を聞いているうちに浮かんだ疑問を奥山さんにぶつけてみた。アルコールに酢酸菌を入れてお酢を作るのだから、お酢を飲めば酢酸菌酵素を体内に取り込めて、理屈的には同じでは?
「残念ながら、市販の酢では基本的に酢酸菌酵素は摂取できません。確かにお酢は、昔から貴族の間で薬として珍重されてきました。江戸時代の文献『随息居飲食譜』を見ると、お酢はお酒の酔いざましによいという記述も見られます。また、イタリアでも、お酒を飲む際、酔いざめがいいようにと、バルサミコ酢を一緒にとる人がいるそうです。ただし、ろ過や加熱殺菌されていない生のにごり酢なら酢酸菌酵素が残っており、多少なりとも期待できる可能性がありますが、市販の酢は加熱・ろ過によって酢酸菌酵素を取り除いています」(奥山さん)
なるほど、残念だが、普通に台所にあるお酢を飲んだからといって、酢酸菌酵素を摂取できるわけではないのだ。
また、アルコールを目に見えるレベルで分解するには、大量の酢酸菌酵素が必要になる。奥山さんは試行錯誤を続け、ようやく酢酸菌酵素を高濃度に含む独自のにごり酢を大量生産する方法を確立したという。サプリメント「よいとき」に含まれるのは、にごり酢を1000倍に濃縮したものだそうだ。
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最初は、酢酸菌酵素と言われても何のことか分からなかったが、よく聞くと、当コラムでおなじみのアルコール脱水素酵素、そしてアルデヒド脱水素酵素そのものだったとは驚きであった。
だが、いくらそうだからと言って、酢酸菌は「魔法の菌」ではない。重ねてになるが、サプリメントはあくまで「補助」。基本は適量を守ることが肝臓にとっては一番である。サプリメントに頼り過ぎることのない酒ライフを送ってほしい。
(エッセイスト・酒ジャーナリスト=葉石かおり)
[日経Gooday2019年4月5日付記事を再構成]
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