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風疹患者報告数が1万6730人に上った2012~2013年の流行時には、45例の先天性風疹症候群が確認されています。ただ、これはあくまで報告数なので、軽症で先天性風疹症候群と診断されていない場合なども含めると、もっと多く発症していると推測されます。45例の中では残念ながら、現在までに11人が亡くなっています。2019年にもすでに2例の報告があり、今後さらに報告数が増えていくことが懸念されます。

1964年には米国で1250万人が風疹に感染する大流行があり、2万人の赤ちゃんが先天性風疹症侯群を発症しました。翌年の1965年には沖縄でも風疹が流行し、408人が先天性風疹症候群を発症しています。

沖縄では、この流行時に先天性風疹症候群を発症し聴覚障害を患った子どもたちのために、聾(ろう)学校が設立されました。その聾学校に通う少年が甲子園で観戦した高校野球に憧れて、仲間や教師とともに様々な困難を乗り越えながら、野球部を設立し甲子園を目指す姿を描いた実話を基にした作品『遥かなる甲子園』は、単行本、マンガ、映画、舞台にもなっています。

妊娠中に風疹に感染し出産した母親と、先天性風疹症候群の当事者によるグループ「風疹をなくそうの会『hand in hand』」(https://stopfuushin.jimdo.com)では、「自分たちと同じ経験をする人をこれ以上増やしたくない」という思いからかねて風疹予防の重要性を伝える活動を行ってきましたが、2018年にはクラウドファンディングで「知ろう、風疹!~舞台『遥かなる甲子園』から学ぶ」プロジェクトを発足。多くの支援を受けて、2019年1月に大阪公演、2月に東京公演を実現しました。8月には埼玉公演を予定しています(詳細はhttps://ameblo.jp/tonokunn/entry-12446470335.htmlを参照)。

風疹は麻疹(はしか)と同様に、発症してからウイルスを抑える治療薬はありません。ですから、ワクチン接種による予防が最も有効な対策となります。風疹のワクチンは1回の接種で約95%、2回の接種で約99%の人に免疫ができるとされています。ただし、ワクチンを2回接種しても、十分な免疫がつかない人もいます。

また、風疹のワクチンは、ウイルスの毒性を完全になくした不活化ワクチンではなく、ウイルスの毒性を弱めた弱毒生(なま)ワクチンのため、妊婦には接種できません。ですから、妊婦や妊娠を希望する女性と接する可能性がある人が、ワクチンを接種して予防することが重要です。

――自身が風疹に感染しないためだけでなく、先天性風疹症候群を防ぐためにも、特に免疫が十分でないと考えられる人たちが、積極的にワクチンを接種することが重要なのですね。

その通りです。以前にもお伝えしましたが、風疹は「不顕性感染」といって、感染しても高熱や発疹といった症状が表れない場合があります。また14~21日間程度の長い潜伏期間があるため、自分が感染していることに気づかずに、人にうつしてしまうこともあります。

先天性風疹症候群を発症する確率が高い妊娠初期は、本人が妊娠に気づいていなかったり、周囲にはまだ妊娠を知らせていなかったりする場合もあるでしょうから、今回の無料抗体検査・予防接種の対象となった年齢の男性は特に、抗体検査を受けてほしいと思います。

市区町村が発行する抗体検査のクーポン券は、2019年度は1972(昭和47)年4月2日から1979(昭和54)年4月1日生まれの男性に送付されることになっています。ただ、2019年度にはクーポン券が送付されない対象者も、市区町村に希望すればクーポン券が発行され、無料で抗体検査を受けられるので、問い合わせてみるといいでしょう。

(ライター 田村知子、図版作成 増田真一)

今村顕史さん
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長。1992年浜松医科大学卒業。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。自身のFacebookページ「あれどこ感染症」でも、その時々の流行感染症などの情報を公開中。都立駒込病院感染症科ホームページ(http://www.cick.jp/kansen/)

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