古川雄大、ミュージカル界の新プリンスへ 全力で挑む
2007年に俳優デビューし、12年に帝国劇場上演の『エリザベート』でグランドミュージカルに初出演。以降、『ロミオ&ジュリエット』や『レディ・ベス』といった人気作に続き、18年は『モーツァルト!』で帝劇初主演(山崎育三郎とのWキャスト)も果たし連日完売を記録した。19年は、『レ・ミゼラブル』と並ぶ大人気演目となった『エリザベート』で、過去には山口祐一郎、石丸幹二、城田優ら、今回井上芳雄も演じる黄泉の帝王・トート役が決まるなど、ミュージカル界の新プリンスとして注目を集める俳優が古川雄大だ。

18年は、『モーツァルト!』のほか『黒執事』『マリー・アントワネット』と3本のミュージカルに出演し、年末にはドラマ『下町ロケット』で大農家の三男坊で超嫌味な吉井浩役を好演。自身の音楽活動も10周年を迎えるなど大車輪の活躍となった。
「ミュージカルではロングランの作品に出させていただくことが多いこともあって、1年があっという間だなといつも感じるんですが、18年はそれが加速した1年。そんななかでもやっぱりモーツァルトを演じたことが1番記憶に残っています。帝劇主演はとても大きな出来事でしたし、印象的です。
役の難しさも、歌唱技術も求められるものがすごく高い。ただ、帝劇で若手の男性が主演を張れる作品はあまりなく、しかも市村正親さんや山口祐一郎さんといった大御所の方々が出演しているなかで、最後に(主演として)挨拶できるという経験は、そんなにないと思うんです。なので、選んでもらえたことが幸せだなという気持ちでした。そして、しっかりと挑戦する意識を持って役を全うしようと歌などのトレーニングも積んできました。その期間を含めて、濃密な時間だったなと思います。
当初、この役はまだ遠い存在というか、できないと思っていたんです。ご縁がありチャンスをいただきましたが、正直不安のほうが大きくて。でも、終わってみたらすごく楽しめた自分がいたので、自分でできないとか限界を決めてはいけないと改めて感じました。
また、帝国劇場という大きな劇場で3時間常に舞台に立ち続ける――集中力を途切れさせず最後まで演じきることができ、そこで歌い続けても問題ない環境が今の自分に整ったことが、今後舞台に立つうえで、お芝居や歌うことへの自信にもつながりました。本当に昨年は『モーツァルト!』の1年だったなと思います」
期待は素直にうれしい
100年以上の歴史を持つ帝劇の舞台に、14年から19年まで6年連続でプリンシパルとして出演中。若手の有望株へ使われることの多い「ミュージカル界のプリンス」の筆頭となっている。
「ミュージカル界のプリンスは、やっぱり井上芳雄さんのイメージです。若手もたくさん素敵な役者さんがいますし、そう呼ばれるのは不思議な感じがします。
芳雄さんみたいな人は他にいないですから。歌も芝居もダンスも何でもできて、何か…透明な個性というか。これは演出家の小池(修一郎[※])先生もおっしゃっていたんですけど、井上さんは『透明だからいろいろな役ができるんだ』って。僕は色がついていると思っているので、そういう意味では、今正統派なところにいられるのは、ミュージカルに出始めた当初は想像してなかったですね。
なんて言えばいいんだろう…。もちろん、期待、注目という意味でプリンスと言っていただけるのはすごくありがたいですし、素直にうれしいです。頑張ろうってやる気にもつながりますし。でも、背負うと大変そうだなって(笑)。…頑張ります」
[※]舞台演出家。宝塚歌劇団所属。
19年もミュージカルを中心に出演作が目白押しだ。2月23日からは『ロミオ&ジュリエット』で3度目となる主演のロミオ役を、6月からは『エリザベート』のトート役で、3カ月に及ぶ帝劇ロングラン公演が控えている。
「今年は『トートの1年』ですかね。『ロミジュリ』は3回目なので、高い精度が求められていますし、当然これまでで1番のものを見せなきゃいけない。座長としての居方は人それぞれですが、みんなでワイワイしながらチームワークを高めていくというのは僕にはできないので、稽古場での姿勢であったり、舞台の上で演技や表現など背中を見せてみんなを引っ張っていけるのが理想ですし、そうでありたいなと思っています。
そして、初めて挑戦させていただくトートはすごく思い入れの強い役です。実はずっと憧れていた、ミュージカルの最終目標にしていた役なんです。いつかトートをやれる役者になりたいと密かに思っていたので、こんなに早いタイミングでやらせていただけるとは思ってもいませんでした。でもせっかく恵まれたチャンスなので、先延ばしにする必要はないなと。
ビジュアル撮影はエリザベート役の花總まりさんと一緒にさせてもらい、衣装を着て、いよいよだなという気持ちになりました。
ルドルフ役で『エリザベート』に初めて出演した24歳のとき、出番のない時間ずっと袖で舞台を見ていて、先輩方のトートに魅了されながらも、『僕だったらこう演じる、こうする、こうやろう』って決めていたんです。トートの演じ方って無限にあるので、稽古ではすごく悩むと思うし、実際どういうトートになるのか分からないですけど、全力で挑むしかない。次の目標は、『エリザベート』が終わった後に見えてくれば」
■理想よりは、もっと柔軟に考えて
作品や役への質問に答える姿は、真面目でストイックな印象だが、ふと見せる笑顔は少年のような面影も感じさせ、そのギャップも魅力的な古川。最後に、役者としての今後の展望を聞いた。
「昨年ドラマ『下町ロケット』で久々に映像に出させてもらって、楽しかったと同時にすごく刺激にも勉強にもなりました。自分に足りないものも見えてきたので、これからもいろいろなことをやっていきたいです――先ほどお話しした通り、限界を決めてはいけないということは『モーツアルト!』で改めて実感したので、与えられたものに対して諦めず、100%の力で挑戦して、自分の可能性を自ら広げていけるような俳優になりたいです。
人生って何が起こるか分からないって思っているんです。人前で歌を歌うなんて思ってもなかったけどアーティストとしてデビューして、しかも10年続いていて。ミュージカルに出るなんて想像もしてなかったけど、それがきっかけとなって新しいチャンスもいただけたりして。だから何が起こるか本当に分からないんです(笑)。ここを目標、こうしたいという理想よりは、もっと柔軟に考えて、アンテナを常に張ってチャンスを逃さないようにしていきたいです」
(ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]
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