花粉症にドライアイ 目かゆくても冷却・水洗いはNG
ストレス解消のルール(7)
春めいた陽気になると「嫌な季節になった」と感じる人の多くは、「スギ花粉」で苦しんでいる人だろう。花粉症患者は、調査を重ねるたびに増加傾向にある。全国でも多いといわれている東京都の2016年度調査では、東京都内のスギ花粉症推定有病率は48.8%。10年前の大規模調査よりも全年齢で有病率が上昇している[注1]。
かくいう私、健康ジャーナリストの結城未来も、2月から鼻がツーンとし、目に違和感が出てきた。「きたきた!」と思ううちに、外出先ではメガネとマスクが手放せない状況に。花粉症によるくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみに悩む人は少なくない。「鼻」へのダメージも嫌だが、特に「目」の場合、集中力を落とし、ひどいときにはかゆみや違和感で目を開けられなくなり、ストレスの増大と仕事の効率低下を招く。
世の中には、さまざまな花粉症対策法が出回っているが、なかには陥りがちな間違いもある。そこで、今回は「花粉症による目のかゆみストレス」に関するNGルールについて、慶應義塾大学医学部特任准教授で、おおたけ眼科つきみ野医院(神奈川県大和市)副院長の綾木雅彦さんにヒントをいただくことにした。
ドライアイの人は花粉症もひどい
――綾木医師「実はドライアイ症状がある人は、花粉症の症状もひどいんですよ」
いきなりのカウンターパンチに驚いた。実は、私も「ドライアイ」。パソコン作業中は目がショボショボしてつらいことが多い。
――綾木医師「ドライアイというのは、涙の量が減ってしまったり、涙は分泌されるのにすぐに乾いたりすることで、結果的に目に傷などのダメージが出やすい症状です。パソコン作業、コンタクトレンズの装着、加齢など原因はいろいろですが、確実に結城さんのようなドライアイ患者さんは増えていますね」
ドライアイ患者が増えているということは、花粉症症状がひどい人も増えているということになる。
――綾木医師「そうですね。理由はシンプルです。一つは、涙の量や質が悪くなった状態のドライアイの目に花粉が飛び込んできても、涙で洗い流すことができないということ。さらに、ドライアイの人は角膜(黒目の部分)が弱っているので、花粉などのアレルゲンから受けるダメージも大きいということです」
つまり、洗い流す涙が少なく刺激に弱くなった目に「花粉」という大きな敵が舞い降りることで、目はダメージを悪化させるということらしい。
――綾木医師「『ドライアイ患者さんは集中力が低下しやすい』。それが、私の研究で分かってきている事実です。当然、ドライアイで花粉症もあるなら、集中力の低下とストレスを招きやすい。仕事の効率を上げたいのでしたら、この辺のケアも大切ですね」
まずは、この時期の花粉によるストレスをなんとかしなければならない。
――綾木医師「花粉が目に入ったことによるアレルギー症状には、主に4つあります。『かゆみ』『涙が出る』『目やにが出る』『充血』ですね」
〇「かゆみ」:目や鼻の粘膜にある肥満細胞から化学物質(ヒスタミンなど)が放出され、異物である花粉に過剰反応して発生する
〇「涙が出る」:目に異物が入ったことによって「大変だ!目を守らなければ!」と目が反応することで出る
〇「目やにが出る」:花粉が飛び込むことで、花粉を撃退するために戦った目の表面の細胞の死骸や、ダメージを受けた組織。「皮膚と同じく、垢(あか)や老廃物の一種ですね」(綾木さん)
〇「充血」:花粉との戦いの最中に出たヒスタミンなどの化学物質が血管を刺激することで起こる
……花粉が目に飛び込むと、目の中では激しい戦いが繰り広げられるらしい。目がつらくなるのも当然のことなのだと、納得だ。
NGルール(1)「目や目の周辺を手でかくのはNG」
なかでも、「かゆみ」で困っている人は少なくないはずだ。実際、私も目のかゆみで、気付けば目をこすってしまっていることが多い。
――綾木医師「こするのは絶対にダメです。ヒスタミンなどの『かゆみ物質』はこすればこするほど増えて、かゆみは広がる一方です。皮膚と同じですね」
では、どうすれば?
[注1]出典:http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/12/18/14.html
――綾木医師「花粉用メガネやゴーグルをかけるなどして花粉を寄せ付けないこと。花粉がついてかゆみを感じたら、まばたきや目を閉じて涙で洗うのが一番です」
NGルール(2)「水道水で目を洗うのはNG」
そうは言っても、前述した通り、ドライアイなどで涙の量が少なく、うまく洗い流せない人も多い。そんなこんなでこの季節になると、「目を取り出してジャブジャブと洗い流したくなる」。そう思うほどつらく感じるのは、私だけではないだろう。実際、私は外出先から戻ると、目はもちろん、顔中に花粉がついているのではないかと気になるため、思い切り顔を洗浄している。
――綾木医師「水で目をジャブジャブと洗うことは避けてください」
……いきなりの否定だ。
――綾木医師「まぶたについた花粉を洗い流すための洗浄ならいいですよ。でも、目の中の花粉なら、基本的に涙で落ちます」
水道水なら、目の中でも問題はなさそうに思えるのだが……。
――綾木医師「水道水は、基本的に目には有害なんですよ。涙とは違うので、浸透圧も成分も違う。コンタクトレンズを水で洗ってしまうと、水道水に生息するアカントアメーバがコンタクトレンズを介して角膜炎を引き起こし、ひどくなると失明の危険もあるくらいです」
プールに行くと、泳いだ後に水でジャブジャブ刺激を与えながら目を洗う光景をよく見かける。これはどうなのだろうか。
――綾木医師「実は、それも目にはよくありません。涙と違う成分を水圧をかけて目に浴びせているわけですから。もちろん、顔を洗いゴミや花粉を洗い流す程度でしたら、問題はありません。でも、必要以上に水道水を目の中に入れないでください」
NGルール(3)「目薬を乱用するのはNG」
それでは、涙で洗い流せない場合は、点眼薬を使いまくるしかないのだろうか?
――綾木医師「点眼薬も、何度も何度も頻繁に差すなど、使い過ぎは目に有害です。特に防腐剤が入っている目薬は目を傷めることがありますよ。あくまで処方通りの適量を守ってください」
では、どうしても「洗い流したい」という切実な思いを満足させるには、どうすればよいのだろうか?
――綾木医師「洗い流したいのでしたら、花粉やゴミなどを洗い流す洗眼薬があります。ただそれも、健常な目だったり定められた用量を守って使ったりする分にはいいのですが、ドライアイのように目を傷めている場合や使い過ぎには注意が必要です。含まれている成分によっては、目に悪影響を与える場合もありますから。お使いになりたい洗浄用の目薬が自分の目に合っていて安全かどうか、眼科医にご相談の上、用量や用法を守ってお使いください」
なるほど。「すっきりできるから」と乱用してはいけないらしい。
NGルール(4)「目を冷やすのはNG」
目がつらいときに目を冷やすと、気が紛れ、炎症を抑えられるような気もするが、これはどうなのだろうか。
――綾木医師「気分転換や治療になると思い込んで、やたらと冷やすのは危険ですよ。気分のリフレッシュ効果はあっても、目の健康には逆効果です。特に点眼治療中の人やドライアイ気味の人など、目が弱っている人は避けたほうがいいですね」
つまり、こういうことらしい。涙は、涙腺から分泌される「水分」、その水分の蒸発を抑えるために目の縁から分泌される「油」、水分が流れてしまわないようにのりの役割をしている「ムチン」が目の表面から分泌されることで構成され、目を守っている。目を冷やしてしまうと、特に油の分泌が滞りがちになり、涙の健康的な循環に悪影響が出て涙の質も下がるのだという。
――綾木医師「特にこの時期、目を冷やしてしまうと、涙による花粉の洗浄除去が不十分になり、花粉によるダメージからの回復も阻害されてしまうことになりますよ」
目のかゆみがとれるどころか、冷やすことでますますひどくなる可能性があるらしい。
――綾木医師「逆に、目を温めれば、大抵の人は気持ちよく感じられます。滞りがちな涙の分泌も目の中での循環もスムーズになりますから」
目のかゆみや違和感を覚えたら、目を温めることで、その不快感を改善できるという。
早速、私も温めたタオルを目にのせてみた。目がふんわりと温められると、花粉によるかゆみもイライラ感も忘れてリラックスし、うっかり眠りそうになった。
――綾木医師「まばたきには目の表面をきれいに拭く役割が、涙には目の表面を洗い流す役割があります。まばたきや涙で花粉を除去し、目を閉じて目を休ませることが、この時期のかゆみストレスから解放される一番のリラックス法です。そのときに目を温めれば、さらに目が楽になります。簡単なことに思えますが、意外と、ちゃんと目を休ませている人はそう多くはないんですよ。ぜひ、心がけてください」
NGルール(5)「メガネを曇らせるマスクの装着法はNG」
最後におまけとして、ぜひ聞きたいことがあった。この時期、花粉を避けるためにマスクとメガネを身に着けている人が目立つ。ところが、メガネが曇りがちなのでこれをストレスだと感じる人も少なくないようなのだ。実は私も、この組み合わせでレンズの曇りと格闘しがちだ。
――綾木医師「ちゃんと正しい装着法でマスクを使っていますか? 私も普段からメガネを欠かせない派です。大切な手術でもメガネとマスクを使いますが、レンズが曇るなんていうことはありませんよ」
改めて、正しいマスクの装着法を教わった。
(2)両手の指でワイヤを顔に押さえつけながら鼻とほほにフィットさせて隙間をなくす
(3)ワイヤ部分を片手の親指と人さし指で支えながら、残りの手であごの下までマスクを伸ばす
(4)両手でマスクを覆い、空気漏れをチェック。呼吸をしてもマスクが顔に密着するように(2)を繰り返して確認する
――綾木医師「こうすれば、呼吸をしてもマスクが顔に吸い付いたままなので、メガネは曇りません」
早速、トライしてみた。これまでは、鼻とほほのフィットをおろそかにしていたことを痛感。手で鼻とほほに当たるワイヤ部分を密着させるように心がけては息漏れチェックを繰り返してみたところ、なんとか曇りも違和感もない視界を手に入れることができた。
マスクは、どのタイプでも大丈夫なのだろうか?
――綾木医師「ワイヤが鼻の形に曲がらない製品は用をなしません。上端を内側に折り曲げるやり方もあるようですが、ワイヤがしっかりとしているマスクでしたら、不要です。ワイヤを鼻とほほにしっかりと添わせるだけで簡単に顔にフィットさせることができますよ」
こうしてチェックしていくと、無意識にNG行為を行っていることに気づく。現代人は、パソコンやスマホ操作など、何かと目を酷使する機会が多い。目のかゆみストレスから解放されれば、視界も広がり前向きになれる。NGルールに注意して、なんとかこのつらい季節を乗り越えよう。
(1)「目や目の周辺を手でかくのはNG」
⇒「かゆいからかく」行為は、かゆみを増やすだけ
(2)「水道水で目を洗うのはNG」
⇒顔、特にまぶたについた花粉を洗うだけならいいが、目を洗うことは目によくない
(3)「目薬を乱用するのはNG」
⇒目薬の使い過ぎは目に有害。特に防腐剤が入っていると、目を傷めることがある
(4)「目を冷やすのはNG」
⇒冷やすことは、目の状態の悪化を招くことがある。温める方が目の健康には良い
(5)「メガネを曇らせるマスクの装着法はNG」
⇒マスクの装着法に気を付けるだけで、「レンズの曇りストレス」から解消される!
おおたけ眼科つきみ野医院副院長、慶應義塾大学医学部眼科学教室特任准教授。1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学医学部留学。昭和大学医学部眼科准教授、国立病院機構埼玉病院眼科医長、国際医療福祉大学三田病院眼科准教授などを経て、現職。医学博士(慶應義塾大学)、日本眼科学会認定眼科専門医・指導医、日本抗加齢医学会専門医・評議員、日本医師会認定産業医、睡眠健康指導士、アメリカ眼科アカデミー国際会員。日本角膜学会
エッセイスト・フリーアナウンサー。テレビ番組の司会やリポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーターや健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動を実施している。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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