塩麹、使う塩で味がガラッと変化 手作りで違い楽しむ
魅惑のソルトワールド(27)
あまり料理をしない人でも、「塩麹(こうじ)」と聞いたらほとんどの人が知っているのではないだろうか。それほど2011年の塩麹ブームは大きなものだった。かつて日本の家庭では当たり前に使われていた塩麹。その後、あまり見かけなくなったが、ブームをきっかけに復活を果たして、現在もしっかりと家庭に定着している。
そもそも塩麹とは何か。米麹に塩と水を混ぜて、数日に1度かき混ぜながら、常温で7日~10日ほど寝かせるだけで出来上がる。ブレンドの黄金比率は「米麹(生)3:塩1:水4」だそうだ。
そのルーツは東北や北陸などの「三五八漬け」にあると言われている。コメや麹を混ぜて作った漬け床に野菜などを漬けこんだもので、野菜が少なくなる冬の保存食であったという。その漬け床が調味料として調理過程に使われるようになったのが「塩麹」と言うわけだ。
塩麹ブームのきっかけとなったのが、大分県佐伯市で代々麹店を営んできた糀屋本店だ。当時の社長・浅利妙峰氏は、時代の流れとともに麹の需要が減り経営状態が厳しくなっていく中、麹を使った味噌やしょうゆ以外の商品開発を模索していた。そんな時に、江戸時代に記された「本朝食鑑」の中に「塩麹」の記載を見つけたという。ピンときた浅利氏は、その後試行錯誤を経て米麹と塩と水の黄金比率を見つけ出して商品化。ワークショップなどを通じて、じわりじわりと広がりメディアからも注目されるようになった。
しかしそれだけでは大ブームは起きない。大ブームとなった要因は大きく2つあると推測する。1つは塩麹の原材料は米麹・塩・水だけと非常にシンプルな上に、時々かき混ぜながら寝かせるだけ、という家庭で気を張らずにできる簡単さだ。2つ目は浅利氏が試行錯誤の上に編み出した塩麹を作るための黄金比率や、開発したレシピを惜しげもなく公開したことだろう。結果、ほかの麹店からも塩麹の原料となる米麹が多数発売され、さらに大手味噌メーカーなど調味料メーカーからも塩麹が発売されるようになった。
これで消費者が簡単に原料の米麹や塩麹そのものを手に入れられるようになった。発案者がアイデアを独り占めせず、シェアすることで大ブームとなる。熊本県のゆるキャラ・くまもんが人気者になったのと似た過程と私は見ている。
塩の専門家の私が言うのもなんだが、塩麹は非常にうまみと甘味に富み、塩だけを使うより簡単に料理をおいしくしてくれる。塩麹が甘味とうまみに富む理由は麹菌が出す酵素に秘密がある。アミラーゼという酵素によって、コメに含まれるでんぷん質がブドウ糖に分解されて甘味を醸し出す。さらに、プロテアーゼという酵素がたんぱく質を分解してうまみを作りだす。つまり、塩麹で料理に甘味とうまみが付加されるので、おいしくなるわけだ。もともとの使い方である漬け床としてはもちろん、いため物や煮物、焼き物、スープなどあらゆる料理の味付けに、そして素材の下ごしらえに、さらにソースとして、使い方はかなり幅広い。冷蔵庫に1つ置いておくと非常に便利なのである。
そんな塩麹だが、完成した塩麹を購入しようとすると、製造に手間がかかるためにそれなりの価格となる。ならば、家庭での手作りはどうだろうか。材料は3つだけでどれも手に入りやすく、そんなにも高くない。さらに作り方も非常にシンプルなので、気軽にチャレンジしてもらえるだろう。
もちろん、作り方がシンプルなだけに「どんな塩を使うか」が出来上がりの味わい、そして見た目を大きく左右する。これまでに数十種類の塩で塩麹を仕込み、それらを観察して、ある傾向を見つけたのでご紹介したい。
●味わいの違いに影響する要素
要素としては大きく2つある。
1つ目は塩に含まれる「食塩相当量」が多いか少ないかだ。皆さんは食塩相当量という言葉を聞いたことがあるだろうか。100グラム中に含まれる塩分量のことを指す。塩分は塩化ナトリウムだけでなく、塩化カリウムや塩化マグネシウムなど塩を構成するほかのミネラルにも含まれていて、それらをすべて合算したものが塩分量とされている。この食塩相当量は塩によって大きく異なる。同じ塩100グラムでも、多いものは99.8グラムが塩分であり、少ないものだと80グラム以下のものもあるのだ。
この食塩相当量は「しょっぱさ」として感じられるため、食塩相当量が高い塩を使った塩麹は当然しょっぱさが強くなる。逆に、食塩相当量が低い塩を使った塩麹はしょっぱさが弱く、まろやかな味わいに仕上がるのだ。食塩相当量はパッケージの裏側の栄養成分表示の枠の下辺りに記載があることがほとんどだ。なお、塩化ナトリウムと記載しているメーカーもある。食塩相当量の記載がない場合は栄養成分表示の「ナトリウム×2.54」で求めることができるので、参考にしてほしい。
塩麹の味わいに影響する要素の2つ目は「塩の製法」がどのようなものかである。
岩塩や湖塩以外の塩は何らかの方法で海水を濃縮して結晶化したものだ。その濃縮工程がどのようなものかで味わいに違いが出る。濃縮工程に揚げ浜式塩田、入浜式塩田、枝条架式塩田、ネット式塩田、流下盤などを採用している塩はこってりとした味わいの塩麹に仕上がる傾向がある。これらの塩は製品のパッケージの裏側に「製造工程:天日」と記載されているのでチェックして欲しい。
●色の違いに影響する要素
次に、塩麹の色である。これは塩がどのような製法で作られたかで大きく異なる。その傾向は3つに分かれる。
(1)塩麹が黄色くなる塩
揚げ浜式塩田、入浜式塩田、枝条架式塩田、ネット式塩田、流下盤で濃縮された海水を使って作られた塩。これらの塩を使うと、出来上がった塩麹は黄色くなり、さらに寝かせるとどんどん色が濃くなってくる。これらの製品パッケージの裏側には「製造工程:天日」と記載されている。
<黄色くなる塩の例>
「粟国の塩釜炊き」(沖縄県粟国島)
「入浜式の塩」(香川県)
「奥能登揚げ浜塩」(石川県)
(2)塩麹が白くなる塩
逆浸透膜やイオン膜などの膜を使って濃縮した塩は出来上がりの塩麹が美しい純白に仕上がる。これらの製品パッケージの裏側には「製造工程:イオン膜」「製造工程:逆浸透膜」という記載がある。
<白くなる塩の例>
「石垣の塩」(沖縄県石垣島)
「五島灘の塩」(長崎県)
「食塩」(国産)
(3)塩麹が灰色になる塩
瞬間的に水分を蒸発させることで海水中の成分をほとんど残す製法を採用している塩はマグネシウムが豊富に含まれており、出来上がりの塩麹が薄く灰色に色づく傾向がある。これらの塩の見分け方は製品パッケージの裏側の栄養成分表示である。ほかの塩と比べて100グラム中のマグネシウムの含有量が多いものを選ぶと良い。
<灰色になる塩の例>
「雪塩」(沖縄県宮古島)
「ぬちまーす」(沖縄県宮城島)
「わじまの海塩」(石川県)
(4)その他
鉄分が混入しているピンク色の岩塩や、硫黄が多く含まれる紫色の岩塩、竹炭などの成分が入っている塩は塩麹に使った場合、下記のように変化する。つまり、残念ながらあまり塩麹づくりには向かない。
<塩の例>
・ピンク岩塩……鉄分や赤土が底に沈殿し、その部分は酸化鉄の影響で赤黒くなる。熟成が進みづらい。
・硫黄入りの紫色の岩塩……全体的に黒ずむ。硫黄臭がするほか、熟成が進まない。
・竹炭入りの塩……全体的に黒くなる。竹炭の殺菌作用の影響で熟成がほとんど進まない。
このように、使う塩によって出来上がる塩麹は大きく変わる。小さなプラスチック製の食品保存容器に少量ずつ塩を変えて作り分けるのも、また楽しいものだ。色々試しながら、自分好みの塩麹を見つけてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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