門外から酒造りの世界に飛び込んだ小泉社長はさまざまな改革に挑んだ

小泉さんは全国、東京国税局、南部杜氏の各鑑評会を重視し、賞の獲得に執念を燃やす。「数ある日本酒の中から消費者に選んでもらうには、まずプロ中のプロに評価されることが大事」と強調する。「(全国新酒鑑評会の)審査結果が出た翌日から、翌年に向けた戦いが始まっています。勝負ですから。おもしろいですよ」

毎年、全国新酒鑑評会に先だって、日本醸造協会が杜氏セミナーを開く。小泉さんはそこに2種類の酒を出品する。審査員は全国鑑評会と似た顔ぶれだという。「どちらが評価されるか、迷うときがあります。全国鑑評会には1種類しか出せませんから。セミナーでの評価で、その年のポジションがだいたい分かります」

毎年の工夫と改良が連続金賞につながるという

「40年間、失敗の連続でしたから慎重になります。酒造りは『段取り8分』だと思います。いかにミスがなくなるような手順を組むか。それが出来栄えを決めます。万が一があり得る、と常に思って取り組んでいます」。かつて自家培養し、好成績を収めていた「東魁酵母」も、「万が一、を避けるため」使用を控えるようになった。

小泉酒造は自社田で五百万石を栽培、原料米に使っている。だが鑑評会出品酒は兵庫県産山田錦。酵母は日本醸造協会頒布の「1801」を採用している。金賞受賞蔵の王道ともいえる組み合わせだ。麹造りの工程にも意を払う。麹菌が生産する分解酵素の力の強さを注視、長期にわたってデータを蓄積していて、出品酒の設計に反映させるという。

酵母と麹の組み合わせ、数種類ある酵素のバランスが酒質に影響するからだという。「(1801のように)吟醸香の強い酵母と組み合わせるには、グルコアミラーゼという酵素の力が強い麹が必要です」。毎年、同じことの繰り返しにみえて、実は仕切り直ししている。「酒造りは日進月歩。若い力が必要です。わたしも70歳になって、最近は息子に任せています」

「訪日外国人にはぜひ、日本酒のよさを知ってもらいたい」と力を込める。一方で、海外市場には目を向けていない。「首都圏の市場は大きいですから。それで十分です」。日本酒に、量より質の時代が到来したことを歓迎しつつ、賞の獲得を目指して、小泉さんは酒造りを楽しみ続ける。

当初は「酒匠の館」だった資料館には古い道具が展示してある
最寄り駅はJR内房線上総湊。館山自動車道富津中央インターチェンジからは10分。梅酒やゆず酒などのリキュール、焼酎も製造販売している。酒匠の館には喫茶コーナーもあり、大吟醸酒入りソフトクリームや甘酒などがメニューに載る。

(アリシス 長田正)