M-1王者の霜降り明星 若いなりのおもろいもんを
平成最後の『M‐1グランプリ2018』を制したのは、結成5年目の20代コンビ・霜降り明星。舞台を動き回る連射砲のようなせいやのボケを、ワードセンス抜群の粗品がツッコむ漫才で、大会では初めて平成生まれが戴冠。お笑い界の世代交代を印象づけた2人は、「新世代」を全面的に打ち出していきたいと抱負を語る。
せいや この1年で(R‐1優勝の)濱田祐太郎さんや(キングオブコント優勝の)ハナコさんなど、20代のチャンプが続々生まれたことで、若いなりのおもろいもんが作れるという空気になっている気がするんです。僕ら世代の秘密基地を作る感覚で、新しいものを作っていきたいです。
粗品 芸人だけではなく、岡崎体育さんやヤバイTシャツ屋さんといったミュージシャンや、YouTuberのワタナベマホトさんなど、ジャンルをまたいだ新世代とも何かできたらいいなと。
スーツ姿で漫才がしたかった
2人は2010年、高校生のお笑いNo.1を競う『ハイスクールマンザイ』で出会った。高校卒業後、教師志望だったせいやを、学生芸人の粗品が口説く形でコンビに。
粗品 せいやとコンビを組むことが決まり、最後のピンの仕事として、『オールザッツ漫才』という番組に臨んだんです。若手芸人のトーナメントにパジャマ姿でフリップ芸をするネタで出場したんですが、そこで優勝してしまって…。
せいや 僕はそれをテレビで見てたんですが、引きましたね(笑)。そんな人間と、名もない自分がやれるのかなって。
番組MCの小籔千豊から「これから売れるで? ピン芸人としてやっていくの?」と振られた粗品は「僕はスーツを着て、漫才がしたいんです!」とキッパリ返答した。
粗品 あれはテレビで見ているせいやへの意思表示でした。おかげで場は凍り付きましたけど(笑)。
せいや 僕のほうはそれどころじゃない。案の定、その後はいばらの道で…。
高校時代、壮絶ないじめを受けていたせいやは、それをお笑いで克服した経験がある。それが再び存在を否定されることに。
粗品 結成後しばらくは、「粗品の良さがなくなってる」「解散したほうがいい」という声がつきまとってました。その時のせいやの心労を考えると…。なので、せいやには、ホンマ感謝しています。
せいや 恥ずいな(笑)。確かに結成から2年くらい、存在自体が認められていなかったもんな。空気みたいな存在だから、空回りにもなってなくて。でも、僕の人生はいつも逆境っすから、絶対に認めさせてやると決めてました。
そして粗品は、スーツ姿で漫才をし、最高の相方とM‐1王者になる。マンガのような第1章。次なる章で2人は何を目指すのか。
粗品 新世代のお笑いをリードしたい気持ちはもちろんですが、オーケストラでは指揮者や演奏者が常に冷静で、観客が自ずと興奮していく状態が望ましいように、僕らは普通にやってるのに周りが盛り上がるというのが理想です。
せいや コイツ、自分で現代クラシックを作曲するくらいのクラシックフリークなんです。
粗品 ガチでクラシック界に新風を吹かせたいと狙っています。
せいや 僕は西田敏行さんのような役者になりたかったので、新世代の三枚目役者になりたい! 『釣りバカ日誌』でもハマちゃんは冷静なんだけど、スーさんや周りが勝手に熱狂していくように…
粗品 無理に張り合うな(笑)。あと、そんな釣りバカ知らんよ!
(ライター 我妻弘崇)
[日経エンタテインメント! 2019年2月号の記事を再構成]
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