くぎを使わず曲線美 世界遺産、ロシア建築の匠の技
千を超える島が浮かぶロシアのオネガ湖。そのなかの一つキジ島に、玉ねぎのような形をした屋根の教会と八角形の鐘楼が建っている。
牧草地に湖畔の湿地帯、打ち寄せる静かな波音に囲まれた美しい建造物は、おとぎ話の一場面を見ているかのようだ。キジ島の木造教会建築(キジー・ポゴスト)は、ロシア、カレリア地方の伝統建築と文化の象徴として、1990年にユネスコ世界遺産に登録された。
島はかつて、先住のフィン・ウゴル系民族が宗教儀式を執り行う場だったが、時とともに移り住むロシア人の数が増え、ロシア正教会の拠点へと変わっていった。
ロシアといえば鮮やかな色や模様の建造物が有名だが、キジ島の教会は控えめな美しさが特徴だ。一見質素なようで、そこには高度な建築技術がふんだんに使われている。なかでも注目すべきは、ポプラ材で作られた手彫りの屋根板だ。顕栄聖堂(夏の聖堂)の高さの違う22の丸屋根と、生神女庇護聖堂(冬の聖堂)の9つのドームに使われている。
言い伝えによると、顕栄聖堂はネストルという名の大工が斧だけで建て上げた。1714年に聖堂が完成すると、ネストルは斧を湖に投げ入れ、同じような教会はもう二度と建てられることはないと宣言したという。
聖堂は落雷によって焼失したが、18世紀のピョートル大帝の治世に、同じ場所に現在の教会が建てられた。鐘楼は、19世紀に入ってから建てられた。当初は木材だけが使われていたが、その後建物を強化するために釘と鉄材を使って補修されている。
このほか、キジ島にはほかの村から木造の民家や納屋、風車、浴場、チャペルが移築され、島全体が伝統的な農村生活を再現した国定の野外博物館に指定された。また、島の各地で木工細工などの伝統工芸や鐘つきなどの実演も見られる。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年12月16日付記事を再構成]
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