日経エンタテインメント!

「一方で、配信が浸透してくる中で、見られ方が地上波に近くなっている印象もあります。コンテンツの作り方より、そちらのほうに難しさを感じますね。

エンタテインメントの倫理や道徳って、世の中の一般的なものとはちょっと違う。例えばショーでハラハラすることをやるとしたら、安全管理を徹底的にしていても、それはお客さんに見せちゃいけません。今はテレビでも『安全には十分注意しています』とか断りながらやる状況があります。これはテレビがリアルにすり寄っていったことが生んだことではあるんですけど。ジェームス・ブラウンは『マントショー』が有名ですが、ステージで倒れてマントをかけられて、それで救急車を呼ぶお客さんは1人もいませんよね? でもそこで救急車を呼ぼうとするお客さんが増えている感覚があります。エンタテインメントの楽しみ方の懐だったり素養が、まだらになってきているなという。もちろん見た方からのご批判は受け止めますが、見ていない人がSNSなどでコンテンツを非難するという現象も起きるので、それはちょっと迷惑だなと思います」

テレビ自体を生き延びさせないと

『人生最高レストラン』(土曜23時30分/TBS系) 大切にしているのはプレミアム感。スタジオセットなども品がある。MCは徳井義実、アシスタントは宇賀神メグアナウンサー

「今はテレビ界も時代の変わり目で過渡期ですが、出口が増えることは制作者にとって悪いことではないなという実感があります。要は、アイデアが死なない可能性が高い。『人生最高レストラン』だって、TBSさんが枠を持っているからできていますし、フジテレビで企画を出したところで『どの枠でやるの?』って話になるわけです。制作者の人的資源の活用の仕方としては、僕みたいな形にどんどんなっていくかもしれませんね。

テレビの存在意義が語られることも多いですが、僕は根絶やしにしてはいけないと思うんです。テレビにはタイムテーブルがあって、つけないと何をやっているか分からないし、自分では選べない。これは弱点ですが、代えがたい特質でもあるんです。今はオンラインで欲しいものを真っすぐに選べる時代ですが、それだと新しい出合いがないですよね。合理化だけしていくと、たぶん世の中がすごくつまらなくなる。テレビには偶然の出合いがあります。自分の本能とは違うものと対峙できる場所があることって、大切だと思うんです。その議論ができるまで、テレビ自体を生き延びさせないといけない。そのために、お年寄り向けの健康に関する番組を作れと言われたら、喜んでやりますよ」

(ライター 内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]

日経エンタテインメント! 2019年 3 月号

著者 : 日経エンタテインメント!編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 680円 (税込み)