本人ははっきり意識していないことが多いが、心のどこかで自分の判断力に不安を感じている。自分が自由な状況に弱いのを知っている、ゆえに、臨機応変の判断が求められるような状況を極力避けようとする。
規則でがんじがらめになっていれば、臨機応変の判断をせずに済む。規則にしがみつくのは自己防衛のためなのである。
万一出遅れるようなことがあっても、規則に則って動いていれば責められる可能性は低い。「コンプライアンスを重視した」「規則に従ってものごとを進めた」と規則のせいにできる。
また、規則や手順にこだわるタイプは、概して論理能力が乏しい。
事情を論理的に説明できる人は、仮に規則違反になろうとも、それが倫理的問題を含まず、形式を踏むというだけの意味しかないのなら、規則にむやみに縛られることはない。論理能力が乏しく、人を説得する自信がないからこそ、何かにつけて規則を持ち出すのだ。
柔軟で論理力ある人にとっては「バカの壁」
さらに言えば、規則にこだわる人物にとくにイライラするのは、論理能力が高く、発想力・企画力のある人である。自分の頭で考えて動くタイプなだけに、なぜ「規則、規則」といって自分で考えて判断をしないのかがわからずイライラする。
だが、規則に必要以上にとらわれるタイプは、規則に従っていないと不安なのだ。規則に従って動いていれば、自分で考えて判断する必要がない。ひたすら規則に従う姿勢をとっていれば、自分の発想力や判断力の乏しさを隠すことができる。結局、自分の能力に自信がないのである。
このタイプは、自分で判断して機動力を発揮したいという、能力もモチベーションも高い人物にとって、「バカの壁」としか言いようのない面倒な存在なのである。

1955年東京生まれ。東大卒業後、東芝勤務をへて都立大大学院心理学専攻博士課程中退。大阪大学大学院助教授などをへて現職。著書に「『上から目線』の構造」など。
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