iPS細胞の利用本格化 脊髄損傷などで臨床研究へ

iPS細胞による再生医療は理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらが14年に目の難病、加齢黄斑変性の患者を対象に実施したのが最初です。このときは患者自身の細胞から作ったiPS細胞を使い、目の網膜細胞を作製して移植しました。2例目も検討しましたが、作製したiPS細胞に遺伝子異常が見つかり、移植を見送った経緯があります。その後は品質管理が容易な他人のiPS細胞を使った移植を行っています。

iPS細胞は全く新しい治療技術なので、安全性を十分に確認して進める必要があります。

岡野栄之・慶応義塾大学教授「新しい治療法実現への一歩」

iPS細胞から作った神経系の細胞を脊髄損傷患者に移植する臨床研究を計画している岡野栄之・慶応義塾大学教授に、臨床研究の意義や見通しを聞きました。

――臨床研究を行う意義は何ですか。

岡野栄之・慶応義塾大学教授

「臨床研究の計画では、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞(神経前駆細胞)を患者の損傷した脊髄に移植する。脊髄損傷に対して神経前駆細胞の移植を行うのは、従来にない世界で初めての手法で、新しい治療法実現に向けた一歩となる」

――臨床研究の対象となるのは脊髄損傷の患者の中でも、受傷後あまり時間が経過していない人に限られるそうですね。

「脊髄損傷の病態は、損傷直後の急性期、次の亜急性期、そして慢性期と日が経つにつれて変化していく。臨床研究の対象となるのは、亜急性期の患者で、損傷後2~4週間に当たる。神経前駆細胞を移植する治療は、比較的早期に実施した方がいいとされる。これまで行った動物実験でも損傷後2~4週間の亜急性期に移植するのが最も効果が大きいことが分かっている」

――臨床研究では備蓄していた他人のiPS細胞を使う計画です。患者自身の細胞から作ったiPS細胞は使わないのですか。

「今回の臨床計画のように、脊髄を損傷してから比較的早期に細胞を移植する場合、患者自身の細胞からiPS細胞を作っていたのでは移植すべき時期に間に合わない。ヒト細胞からiPS細胞を作るのに約3カ月かかり、そこから神経系の細胞を誘導するのに約2カ月かかり、さらにその細胞の品質をチェックするのに約半年必要で、すべて合わせると1年近くの準備期間がいる」

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら