先住民女性から初の米連邦議員 歴史的出来事の背景
2018年の米中間選挙で起きた歴史的な出来事の一つは、連邦議会で初めて先住民女性議員が誕生したことだ。
元ニューメキシコ州民主党会長でラグナ・プエブロ族のデブ・ハーランド氏が下院に当選したほか、カンザス州でもホーチャンク族の弁護士シャリス・デービッズ氏が共和党のケビン・ヨーダー議員を破り、下院に当選した。
ネイティブアメリカンの人々についてのニュースを扱うオンラインニュースサイト「Indian Country Today」の編集者マーク・トラハント氏は、2人の勝利が歴史に与える影響について、どれだけ大げさな言葉を並べても言い足りないと話す。1789年以降に誕生した連邦議員約1万2000人のうち、先住民の血を引く議員は300人ほどだが、その中に女性は一人も含まれていなかった。
「国民の代表たちの議論の中に、アメリカ先住民がいなくてはなりません。その重要性を、先住民のコミュニティーは理解するでしょう」
怒りが女性の台頭を後押し
2018年の中間選挙は女性たちにとっても歴史的な選挙となった。下院選挙では、新人31人、現職65人、合計で96人の女性議員が生まれた。ミシガン州とミネソタ州では、史上初のムスリム女性議員が誕生した。民主党のラシダ・タリーブ氏、民主農民労働党のイルハン・オマル氏だ。
こうした劇的な選挙結果の背景には、セクシャルハラスメント問題や女性の声を抑え込んできた権力構造について、全米が再考を迫られているということがある。「#MeToo」運動から、性的暴行疑惑が浮かび上がった連邦最高裁判事ブレット・カバノー氏の公聴会まで、怒りが政界における女性の台頭を後押しした。
カンザス州から下院議員になるデービッズ氏は弁護士であるだけでなく、同性愛者であること、格闘家であることを公言している。今回の選挙では、LGBTQ(性的少数者)の候補者も複数当選した。
ハーランド氏とデービッズ氏の勝利は先住民にとって、政治への完全参加を勝ち取るまでの長い道のりの象徴でもある。米国政府がすべての先住民に市民権を与えたのは1924年。ハーランド氏の地元であるニューメキシコ州が先住民に選挙権を認めたのは1962年で、50州のうち最後だった。
パイプライン建設への抗議で先住民の政治活動が活発化
先住民の政治活動に火がついたきっかけは、2016年に始まったダコタ・アクセス・パイプラインへの抗議行動だと考えられている。
トラハント氏は言う。「スタンディングロック先住民居留地での抗議行動は一つの節目でした。パイプラインの設置を阻止できるかどうかにかかわらず、新たな力によって、より大きな何かができると気づいた瞬間です」。選挙前、先住民の連邦議員は2人しかいなかった。チカソー族のトム・コール氏とチェロキー族のマークウェイン・マリン氏で、いずれもオクラホマ州の共和党議員だ。今回の選挙では、2人に続こうと、数十人の先住民が立候補した。
ハーランド氏とデービッズ氏は職業軍人の家庭に育った。先住民のコミュニティーに深く根差している伝統の一つだ。先住民は米国が関わったすべての戦争を戦ってきた。軍人という職業を選択する人も非常に多い。
デービッズ氏は退役軍人のシングルマザーに育てられた。ハーランド氏の父親(先住民ではない)は海兵隊員で、銀星章を授与され、アーリントン国立墓地に埋葬されている。ハーランド氏自身は35代目のニューメキシコ州民を自称し、母親と祖母から不屈の精神を受け継いだと話す。
「祖母はバケツいっぱいの灯油とブラシで、列車のディーゼルエンジンの汚れを落としていました。母は25年間、連邦政府の職員として、先住民の教育に携わりました。私は2人から勤労意欲を受け継ぎました」
先住民はアフリカ系米国人と同様、人頭税や読み書きテストといった有権者抑圧戦略の対象とされてきた。例えば、2018年10月には、ノースダコタ州のスピリットレイク族が有権者身元証明法に関する訴えを起こしている。訴えによれば、この法律が原因で、居留地の住民たちは選挙権を奪われているという。
それでもトラハント氏らは、ハーランド氏とデービッズ氏が連邦議員になることで、先住民たちの心に強い印象を刻んだと確信している。
「ラグナ・プエブロ居留地に暮らす女の子が『大きくなったら大統領になりたい』と言えるようになったのです。これまではあり得ないことでした。2人のような女性を見たことがなかったためです。これはどのような選挙より重要なことだと思います」
(文 RACHEL JONES、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年11月9日付]
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