もはや少数派 米国の白人社会に何が起こっているか

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/9/2
ナショナルジオグラフィック日本版

分断――現在の米国社会を象徴する言葉だ。米国が昔から抱える人種間の分断も例外ではないが、中身はかつてと大きく違う。ナショナル ジオグラフィック9月号の特集「白人が少数派になる日」では、人口構成で白人の割合が年々減る米国で、変わりゆく白人の立場と、急激に変化する社会の中で白人たちが今何を感じているのかをリポートしている。

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米国北東部に位置するペンシルベニア州東部の町、ヘイズルトン。炭鉱が相次いで閉鎖され、工場の雇用がなくなり、人口は減る一方。しかし、町の経済が落ち込んでも、毎年秋に行われる恒例の祭りでは、目抜き通りに住民たちが繰り出していた。

しかし、祭りは一変した。毎年参加していた白人女性サリー・イエールに言わせれば、今の祭りは怖くて、とても参加する気になれない。ぶしつけな言い方をすれば、褐色の肌をした人たちの祭りになったという。「公共のイベントに行くと、数で負けていることを痛感させられるわ。それでも行く気になる?」

斜陽の町を活気づけたのはヒスパニック(中南米系の人々)の流入だった。2000年にはヘイズルトンの人口2万3399人の95%が非ヒスパニック系の白人(「黒人」「ヒスパニック」「アジア系」「北米先住民」「ハワイ先住民など太平洋諸島に住む人」「2つ以上の人種」以外の人)で、ヒスパニックは5%足らずだったが、2016年までにはヒスパニックが人口の52%を占める多数派になり、白人の割合は44%に減った。ヘイズルトンは米国の人口構成の推移を端的に示す一例だ。

米国勢調査局の予測では、2044年までに非ヒスパニック系の白人が人口に占める割合は50%を割る。米国の人種間の関係と白人の地位が変わるのはほぼ確実だ。

ヘイズルトンで起きていることは、白人が多数派の地位を失う近い将来の米国の縮図でもある。すでにこの問題は全米で活発に議論されている。一部の白人はインターネットのフォーラムで意見交換し、南北戦争で奴隷制存続を主張した南部連合を記念する銅像の撤去に抗議するなど、自分たちの生き方が脅かされていると感じて、不安と怒りをあらわにしている。

学校や工場、ショッピングモールでは、地位の逆転がいち早く進みつつある。2000年以降、マサチューセッツ州、メリーランド州、ノースカロライナ州、カリフォルニア州、ニュージャージー州、テキサス州などでは、これまでマイノリティーと呼ばれてきた人々が人口に占める割合が非ヒスパニック系の白人を上回る郡も出てきた。

米国では長年、人種について考えることは白人以外の人々の地位向上や苦境に着目することを意味していた。米国社会は基本的に白人社会であり、ほかの人種・民族グループは社会の周辺に押しやられた人々で、人種問題は彼らが直面する問題だと考えられていたのだ。ところがバラク・オバマ前大統領からドナルド・トランプ現大統領の時代まで、ここ10年ほどで状況が変わり、白人の立場の問題が注目されるようになってきた。

米国の白人にとって人種問題が人ごとでなくなった証拠はいくつもある。移民法と差別撤廃措置をめぐる論争。最終学歴が高卒以下の白人中高年層で薬物やアルコール、自殺による死亡率が増えていること。人種による線引きで有権者の分断が進んでいること。そして白人至上主義者が精力的に活動し、支持を広げ始めたことだ。

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