存続危ういアマゾン先住民、美しい日常 撮影秘話
写真家チャーリー・ハミルトン・ジェームズ氏は、ナショナル ジオグラフィック 2018年10月号で「アマゾンの孤立部族」特集の撮影を担当し、先住民の人々のプライベートな瞬間を撮影した。ハミルトン・ジェームズ氏はどうやって彼らを撮影したのか、その舞台裏をのぞいてみよう。
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アマゾンの孤立部族、アワの人々の中では、ハミルトン・ジェームズ氏は目立たずにはいられない。身長が193センチもあるのだ。「単に白人が来た、というのでなく、ものすごく大きな白人男が入ってきたという状態だったのです」と、氏は笑う。
違和感たっぷりな中で撮影を成功させるため、彼は目立たないことより、友達を作ることに力を注いだ。スマートフォンのアプリの助けを借りて、すぐに子どもたちを大笑いさせることができた。「子どもたちは、大人と違って壁がありません」とハミルトン・ジェームズ氏。間もなく大人たちも一緒になって笑い、彼は自分が歓迎されているとわかった。
もともと野生動物の写真家で、最近は先住民の生活を撮影している同氏は、この仕事の落とし穴をよく心得ている。「倫理的な地雷があちこちに隠れています。自覚していようといまいと、私たちは先入観を持って彼らの暮らしに入っていきますから」
似ているところを狙う
撮影に当たって、ハミルトン・ジェームズ氏はアワ族と読者との違いを強調するよりも、類似点に目を向けた。「こういった場所へは、現地の人々と自分たちはそれほど違っていない、むしろ似ているのだと考えて行く方が、読者は彼らを身近に感じられます」と同氏。「そうすれば、彼らに感情移入できます。彼らの問題は私たちの問題に似ていると気が付くのです」
今回のアワ族の撮影は、ハミルトン・ジェームズ氏にとって、この地域での初仕事というわけではなかった。長年、彼は仕事で何度もアマゾンに足を運んできた。
「素晴らしい場所ですが、仕事場として快適とは言えません」と同氏。暑さや虫たちのおかげで、これまでも面倒な事態が起きていた。「結局、アマゾンとは愛憎が半ばする関係に落ち着きました」と彼は説明する。「放ってはおけないけれど、あまり行きたくもないという土地です」
それでも、ハミルトン・ジェームズ氏はアマゾンに取り組み続けている。「アマゾンに大昔から暮らしている人々のことを理解せずに、そこの森林を理解したり心配したりすることはできません」
ハミルトン・ジェームズ氏は、アワ族が直面する困難について十二分に承知している。文字通り侵食してくる力にさらされ、村人たちが暮らす孤立した森林地帯は過去最小となっている。「やがて食べ物が尽きてしまうでしょう。広げられる土地はもうありません。あるひどい年には、村人たちは森林の3分の1を火事で失いました。かなり絶望的な状況です」
美しい光景
しかし、アワ族の人たちが朝の水浴びをしに川へ行くときには、そんな絶望はどこにも見当たらない。彼らはこの時間を使ってリラックスし、水に浸かり、1日の予定を立てる。ペットのカメに水浴びをさせる人々の姿に、ハミルトン・ジェームズ氏はすっかり魅了された。「最もフォトジェニックで美しい光景でした」と彼は振り返る。「誰もカメラを気にしていない中で、ただそこに立って撮影できるのは、まさに素晴らしいことでした」。こうしたくつろいだ瞬間の平穏と美を切り取ることで、アマゾン先住民の人間性と幸福を強調したいとハミルトン・ジェームズ氏は願っている。
実はアワの人々と過ごした時間だけが、写真家とアマゾンを結びつけているわけではない。
2012年、ハミルトン・ジェームズ氏はペルーにあるマヌー国立公園を違法伐採業者から守ろうと、公園の一部の土地約40ヘクタールを買い取った。だがその後、自分が購入したのはコカの違法栽培用地だったと判明した。アマゾンの貧困、保護、先住民の村々、森林伐採をめぐる厄介な問題(違法伐採業者との生活からシャーマンの助手を務めることまで)を理解しようとしているが、彼の見解は混乱する一方だ。
個人的に新たな真理も見つかった。「私はずっと、問題は人間にあるのだと考えていました」と氏は言う。「今は人間が大好きです」
その愛情はアワの人々を撮った写真から伝わってくる。ペットのサルを連れた子どもたちのくつろいだショットから、スマートフォンを持ったアワ族の若者たちが、現代社会と孤立した村との間を行き来する様子まで、ハミルトン・ジェームズ氏は様々なアワ族の姿をとらえている。
「人々を対象物として扱いたくはありません」と彼は言う。「世界の貧しい人たちを無視していれば、私たちは大きな危険に見舞われます」
次ページでも、ハミルトン・ジェームズ氏が、今回の取材で撮影した写真を紹介しよう。
(文 Erin Blakemore、写真 Charlie Hamilton James、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年10月10日付記事を再構成]
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