安藤サクラ 『まんぷく』ヒロインの経験は出産と同じ
若手女優の登竜門と目されているNHKの連続テレビ小説(通称:朝ドラ)。指名でヒロインが決まることもあるが、映画で高く評価されてきた30代の女優で、テレビ出演のイメージがあまりない安藤サクラが起用されたのは意外だった。今井福子役にどう取り組んでいるのか。
「1分1秒を大切にしたいほど、幸せな現場です。正直、なぜ周りの人が『朝ドラは大変だ』って言うのかが分からないくらい、今から終わるのが寂しいです(笑)。
私の撮影は、今井家の家族のシーンから始まりました。お母さんの鈴さん(松坂慶子)や咲姉ちゃん(内田有紀)、克子姉ちゃん(松下奈緒)はみんな壁がなく、両手を広げるように受け入れてくださって。居心地よく、私はすぐに末っ子らしく甘えられたので、変な気負いを感じずにいられました。
福ちゃんは楽天家で、辛い状況があったとしても、ハッピーになれるように自然と発想を変換できる女性。そんな福ちゃんを演じていると私も前向きに、より楽しい時間を過ごそうって思えます。
私はこれまで、真っすぐに物を見られないような、曲がった役が多くて。今回、カメラテストをして特に思ったのが、まずは真っすぐに立てないとダメだと。モデルさんのように立つというよりは、どっしりと立って前を向く。それを忘れずにいようと思いました」
朝ドラについては「大好き」と語り、映画や舞台などと同じく、1つのジャンルのようなイメージを持っていたそうだ。
「私は映画などで、携帯電話の電波が届かないような山奥とか、ちょっと辺ぴな所に行く機会が多くて、そういう土地の方々にたくさんお世話になってきたんです。でもなかなか、自分が出演した映画はそこの地域では見られなかったりして。朝ドラなら全国放送ですし、日本の隅々にまで届けられる。今回初めて、これまでの恩返しができるかもと思っています」
福田靖の脚本については「新刊のマンガみたいなワクワク感」と評し、届くのが楽しみだという。
「具体的に『ここ』と言えないくらい、どの話も面白いですし、登場人物が全員愛おしいです。先日、リハーサルで萬平さん(長谷川博己)と一緒にいたら、腹を抱えて大笑いし始めたんですよ。どうしたんだろうと思ったら、台本を読んでました(笑)。まだ読んでいなかった私に、「早く読みなよ」って。その姿を見て、子どもの頃、マンガを読んで喜んでいた同級生の男子を思い出して、なんて幸せな作品なんだろうって思いました」
義母の一言で出演を決意
朝ドラヒロインの話が来たときは、出産間もない頃であり、オファーを受ける可能性はゼロと考えていたそうだ。安藤は父が奥田瑛二、母が安藤和津、義父が柄本明、義母が角替和枝という芸能一家。夫の柄本佑は、『まんぷく』と同じNHK大阪放送局(通称BK)制作の『あさが来た』(2015年)にメインキャストで出演している。断らなければいけないと落ち込む安藤の背中を押したのは、家族だった。
「特に乳飲み子のときは私は子育てに専念すべき、子どもがいなかったとしても、妻として家庭を守るべきだと思っていたので、お話をいただいた時はうれしさでしびれる一方で、とても悔しかった。どうしたらオファーを断った後に、この話をポジティブな方向に持っていけるだろうって。
その発想を変えてくれたのが、家族からの言葉でした。夫は『なんで? やればいいじゃん』と、拍子抜けするほど軽く言ってくれて。『BKだったら大丈夫だよ、あのロビーでさ…』とか、家族全員が具体的にアドバイスをくれたのがありがたかったです。1番強く響いたのは、出産後も女優を続けている義理の母が、『サーちゃん、これをやらないんだったら、事務所も仕事も辞めちゃいな』って話してくれたことです。そこで覚悟を決めました。
もちろん、NHKの器の大きなスタッフの方々の説得も心にしみました。実際に制作のために動き出してからは、朝ドラのスタッフの方だけでなく、お掃除のおばちゃまや受付のお姉さんまで、みなさんが娘の面倒のサポートをしてくださっています」
朝ドラの他にも、リリー・フランキーとW主演した映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。18年は安藤にとって、重要な意味を持つ年となりそうだが。
「私は、それは女優としてのキャリアとはあまり捉えていないんです。もちろん、ものすごい経験をさせていただいていると認識していますが、1人の人間として、人生を歩むなかでの大きな1つの出来事だと思っていて。『出産した』とかと同じような感じです。それを仕事に結びつけるとすれば、次の作品に関わるときに、自分がどんなことを思うのか。変化し続けたいし、常に想像できない自分でありたいなと思っています」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2018年11月号の記事を再構成]
安藤サクラさんの義母、角替和枝さんは10月27日、原発不明がんのため、お亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。
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