朝ドラ『まんぷく』濃厚な作風 制作者が語る舞台裏
NHKの連続テレビ小説(通称:朝ドラ)開始から今年で57年。視聴率20%超えも珍しくない人気を維持するなか、99作目の『まんぷく』も力作となりそうだ。制作統括の真鍋斎氏にドラマ作りの裏側を聞いた。
日清食品の創業者である安藤百福とその妻・仁子の人生を、フィクションとして再構築している本作。戦前の昭和13年から話は始まり、失敗を繰り返しながらも約20年後に、世界初のインスタントラーメンを発明した夫婦の成功物語となる。ドラマでは妻側からの視点で物語が進み、ヒロインの福子を安藤サクラが、夫の立花萬平を長谷川博己が演じる。
朝ドラといえば、若手女優のヒロインオーディションで知られるが、『花子とアン』(2014年)の吉高由里子、『ひよっこ』(17年)の有村架純と、制作側からのオファーで決まることも増えた。安藤もまた、オファー組。何度もオーディションを受けた過去があり、話が来たときは心からうれしかったと語っている。17年に第1子を産んだばかりだったが、周囲の声に背中を押されて心が固まり、朝ドラ史上初めてとなる、子育てをしながらのヒロインが誕生した。
安定感抜群の共演者たち
真鍋氏は安藤の起用について、「映画ではシリアスな役が多いが、芝居の幅として、十分に朝ドラのヒロインができる人。ぜひお願いしたかった。実際に会ってみると、フワッと柔らかい印象でとても明るく、かわいらしい。『これはいける』と感じた」と語る。第1週では福子の10代を演じた安藤。発明家の萬平と結婚し、浮き沈みの激しい人生を送ることになる。様々な事業に手を出す夫を支える女性として、どうたくましく成長していくかが楽しみな出だしとなった。
相手役の長谷川をはじめ、福子の家族のキャストは母の鈴すずに松坂慶子、長姉の咲に内田有紀、次姉の克子に松下奈緒と、演技力に定評のあるメンバーがそろい、抜群の安定感が漂う。ほか、萬平の夢に関わる面々に、片岡愛之助や桐谷健太、福子の親友に松井玲奈、福子の仕事の先輩として橋本マナミが配役されるなど、バラエティ豊かな人選が光っている。
脚本は、NHKでは大河ドラマ『龍馬伝』(10年)を手掛けた福田靖が担当。真鍋氏は脚本について、「キャスト同様に濃い」と笑う。福田は『龍馬伝』や『海猿』シリーズに代表される、男くさく熱い人間ドラマでファンの心をつかんできた。一方で、『HERO』シリーズや『ガリレオ』シリーズのような、ウイットに富んだ会話劇が魅力の軽快な作品でもヒット作を生み出してきている。朝ドラらしい爽やかな人情物語をベースに、親子の温かなやりとりでホロっとさせ、そこに今後の波乱を予感させる出来事を散りばめ、どこにもほころびがない展開。ストーリーテラーとしての手腕をいかんなく発揮している。
笑い誘う場面も実話から!?
序盤、福子の姉の咲に、歯科医の牧(浜野謙太)が求婚する場面がある。その際、牧はなぜか白馬に乗って登場する。笑いを誘う楽しいシーンなのだが、実はこのエピソードは実話だという。真鍋氏によると、「安藤夫妻周辺のエピソードは、実にユニークなものばかり。本当にネタの多い方たち」なのだそうだ。真鍋氏はさらに「調べれば調べるほど、安藤夫妻は波乱万丈の人生を歩んでいる。また、昭和という時代も現代と全く違う。戦争も含め、まさに激動の時代だった。この作品では時代の激しさを、福子と萬平の人生を通して描いていきたい」と語る。キャストの面々だけでなく、ドラマ自体の密度も濃いということで、「正直、胃もたれを起こす方もいるかも(笑)。ぜひ毎朝1話ずつ見てほしい」とジョークを交えつつ、濃厚な作風をアピールしていた。
見応えという要素は、忙しい時間帯に習慣的に見るという性質から、朝ドラとしては挑戦になるかもしれない。しかし、心を動かされる作品を視聴者は待っている。『まんぷく』は、どのように楽しませてくれるか。福子たちの波乱万丈な人生を"目撃"しよう。
(ライター 田中あおい)
[日経エンタテインメント! 2018年11月号の記事を再構成]
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