――ゲノム編集を使った品種改良にはどんな利点がありますか。
「例えば、有用成分のGABAを豊富に含むトマトを開発する場合、GABAを作る酵素に注目した。この酵素の働きを普段は抑制している部分がある。ゲノム編集技術を使ってこの部分を除去するとGABAが多く作られるようになる。ゲノム編集で関係する遺伝子をわずかに操作することでこれができる」
「このように目的とする性質をピンポイントで実現したいとき、ゲノム編集は非常に効率的だ。従来の育種の方法では、新品種ができるまで数年から10年近く必要だったが、ゲノム編集を使えばこれを約1年に短縮できるだろう」
――環境省や厚生労働省がゲノム編集作物の実用化に向けルール作りを進めています。どう受け止めていますか。
「環境省などの現在の案では、ゲノム編集によって外部から遺伝子を導入する場合は、遺伝子組み換え作物と同様の規制の対象にする一方、遺伝子の一部を壊すなどの改変は規制対象にしないという。日本のゲノム編集作物はいずれも外部の遺伝子の導入を伴わないものなので、規制対象から外れることになりそうだ。市場に出るのを待っているゲノム編集作物にとって追い風になるだろう」
――消費者はゲノム編集作物をスムーズに受け入れるでしょうか。
「消費者がゲノム編集作物について『なんとなく不安だ』という感覚を持つのは理解できる。ただゲノム編集による作物の遺伝子の変異の度合いは、従来の遺伝子組み換え作物はもちろん、人為的な突然変異を起こした場合と比べても小さいものだ。このことを理解してもらいたい」
「我々も参加しているゲノム編集の研究プロジェクトで実施したアンケート調査によると、消費者はゲノム編集によって有用な作物ができることを歓迎しているようだ。ゲノム編集の技術の中身を丁寧に説明するとともに、魅力的な新品種を実際に作っていくことで、社会の受容性を高めていきたい」
(編集委員 吉川和輝)