専門VCにプレゼン特訓… 女性の起業に資金支援の輪

2018/9/25
社員と打ち合わせするSHE株式会社の中山紗彩社長(東京都港区)

女性特化の社内VC

こうした女性起業家を資金面で支える動きは少しずつ広がっている。ポーラ・オルビスホールディングスは18年、社内ベンチャーとして、女性起業家に特化したVCを設立。第1号として、若手女性のキャリア支援を手掛けるSHE(東京・港)に6000万円を出資した。

自身が小中高一貫の女子校で受けた良妻賢母教育に違和感を覚えたという中山紗彩社長(27)は、「女性が夢をかなえる生き方ができる社会を作りたい」という思いから創業。短期的な成果を求められがちなVCからの出資には迷いがあったが、担当者との話し合いから「同じ目線で一緒に戦ってくれる」という安心感を得たという。

ポーラでVC事業を立ち上げた岸裕一郎さん(27)は「事業としての投資なのでリターンは当然必要だが、女性がメインの顧客の化粧品会社として、女性リーダーが多く生まれることが、長期的な会社のメリットになる」と説明する。SHEに続き、年内に投資先を3件まで広げる計画だ。

女性に特化した支援の背景には、女性起業家に資金が回りにくい現状がある。岸さんが社内VC立ち上げの際に国内大手VCの投資先約300社を調べたところ、女性がトップの企業は2%にとどまったという。

世界的にも同様の傾向があるようだ。会計コンサルティングのEYジャパンが5月に発表した調査によると、日本を含む21カ国・地域の2766社への調査で、女性起業家の52%が「資金調達ができていない」と回答した。男性起業家では30%にとどまった。経営上の最大の障害を尋ねると、女性起業家の17%が資金調達を挙げた。

米国では17年、VCの資金の97%が男性経営者の企業に流れているとの米誌「ベンチャー・キャピタル」調査が話題になった。

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男性と比べ、融資回りにくく

なぜ女性起業家は資金を得にくいのか。EYの関口依里シニアパートナーは、投資する側の大半を男性が占めている問題を指摘する。実績の少ないベンチャーへの投資は起業家自身への信頼がカギとなるが、女性は「ボーイズネットワーク」に入りにくいというわけだ。

関口さんはさらに「女性はプレゼンが控えめな傾向がある」とも分析する。短期間で10倍以上ものリターンを求めるVC側のニーズに対して、自身の可能性を大きく見せようとする男性起業家に比べて、女性は堅実な事業計画を作りがちだという。

「身の丈」を志向する起業家向けの制度もある。ちふれホールディングス(埼玉県川越市)は13年から、女性起業家に資本金と貸付金で計1000万円を上限に支援しており、これまで7件採択した。

うち1件が、健康を考えたレシピ作りや料理の撮影を手掛ける、フードスタジオマンマ(東京・品川)。中津川かおり社長(42)は15年に会社を立ち上げたが、経営の経験はなく銀行融資は考えにくかった。一方で優先的な目的は企業価値の急拡大よりも、健康支援という自身のビジョンの実現。内容を評価してくれたちふれの制度がはまったという。

売上高は初年度の800万円から今期は5000万円を見込むまでに拡大。17年から始めた消費者向けの中食製造販売の店舗展開を増やすため、最近は新たに銀行融資を受けることを決めた。「事業を続ける中で見えてくる『次』のステージに一歩一歩進みたい」と話している。

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支援もっとあっていい ~取材を終えて~

なぜ女性起業家に流れる資金は少ないのか。尋ねて回ると、「おカネを出す側」に加え、女性起業家の事情も浮かんできた。事業の拡大自体が目的になりやすい男性に対して、身の回りで感じた課題をビジネスを通して解決したいと考えがちな女性。生活に根ざした事業内容が多くなり、人工知能(AI)やフィンテックといった、急成長が期待される分野に向きがちな投資家の関心を得にくいという。

どちらが正しいということはない。ただ、トップランナーに女性が少ないとすれば少し寂しい。米国などには、女性起業家に特化したファンドも多く誕生しているという。支援の仕組みはもっとあって良いと感じた。

(木寺もも子)

[日本経済新聞朝刊2018年9月24日付]