「拡散お願いします」 大志抱く女子学生に活躍の場をダイバーシティ進化論(出口治明)

2018/9/22
写真はイメージ画像=PIXTA
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「学長、助けてください!」。5月、僕のフェイスブックにそんなメッセージが飛び込んできた。

発信元は、わが立命館アジア太平洋大学(APU)の女子学生。彼女はアップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏を超えると明言。有言実行を目指し学業はもちろん、海外インターンシップ事業を展開する世界的な学生団体の活動などで忙しい日々を送る。

そのポスト・ジョブズ候補がなぜ、助けを求めてきたのか。僕が初めて彼女と接したのは5月13日のこと。聞けば、16日に下の学年の男子学生2人と中国に行くという。詳しい経緯は知らないが、スマートフォンの利用法など技術の最先端を体感するなら中国の深圳だとなり、「もう待てない!」と航空券を入手。出発を待つばかりだという。

だが、学生はお金がない。クレジットカードを使ったが期日に支払える見通しが立たないという。そこでクラウドファンディングを使い、現地での労働提供や滞在リポートを送るなどを条件に支援者集めを試み始めたそうだ。だが、自分たちで周知できるのは、やはりお金がない学生仲間ばかり。そこで、「フォロワーが多い学長に拡散を頼もう」と相成ったとのこと。

この1件を友人に披露した。「無鉄砲すぎる。学生を甘やかしてはいけない」と切り捨てたのは元大企業役員。一方、「方法論として間違ってはいない。ビジネスの世界でも、お金をためてから工場をつくるのではなく、先に投資を決め後からファイナンスを考えることはある」と評価したのは役人だ。実は中央官庁の上級職は海外経験者も多く、意外に柔軟な発想の持ち主が多い。僕? 当然、面白がって拡散に協力した。

APUにはポスト・ジョブズ候補もいれば自称マザー・テレサ後継者もいる。二人は親友でフリーマーケットなどを開いている。さらに「出る杭(くい)を貫く」がモットーの某有名お嬢様学校出身者もいる。彼女いわく、それまでは何かやろうとすると止められたがAPUでは応援してもらえてうれしいとのこと。彼女は今、南米にきれいな水を届ける活動に携わる。

こんな学生がいるから大学は楽しい。後生畏(おそ)るべし。彼女らこそ希望である。大志を抱く女子学生が日本は活躍の場がないと失望し海外に出て行ってしまったら大損失だ。若者はのびのびと。人材空洞化を防ぐ大人の責任は重い。

出口治明
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。

[日本経済新聞朝刊2018年9月17日付]