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松山の鍋焼きうどん 一年中食べる、飲んだ後も食べる ふるさと 食の横道(5) 瀬戸内島伝い編

2018/9/12

お隣香川県のさぬきうどんと違って、コシで勝負しないふわふわのうどんが黄金色のおつゆに気持ちよさそうにつかっている

 あまり知られていないようだが、愛媛県の県都、松山市は鍋焼きうどんの町だ。めったに雪も降らない瀬戸内にありながら、市民は年中、鍋焼きうどんを食べる。メニューに取り入れている居酒屋も多く、飲んだ後の締めになる。

 戦後間もなく、松山に「アサヒ」と「ことり」という2軒の鍋焼きうどんの店ができた。この2軒が両雄、あるいは双璧となって松山に鍋焼きうどんの文化を根付かせた。「アサヒ」には以前、行っている。今回は「ことり」ののれんをくぐった。

 アーケード商店街の「大街道」から路地を入ったところに「ことり」は小さな看板を掲げている。テーブル席と小上がりを合わせて30人も入れば、いっぱいになりそうな店だ。平日の正午前だというのに、どこからか人が来てどんどん入っていく。

 メニューには鍋焼きうどんといなりずししかない。午前10時に店を開け、午後1時すぎには「売り切れご免」となる。私たちは店がすき始める午後1時前に客となった。

 テーブルに鍋焼きうどんが運ばれてきた。松山の鍋焼きうどんはアルミ鍋で供される。レンゲもアルミだ。お隣香川県のさぬきうどんと違って、コシで勝負しないふわふわのうどんが黄金色のおつゆに気持ちよさそうにつかっている。具はかまぼこ、細かく刻んだ油揚げ、だて巻きのような黄色い練り物、甘辛く煮た牛肉、青ネギ。

「讃岐うどん ことり」松山市湊町3ー7ー2 電話089ー921ー3003

 レンゲでおつゆを口に含むと「おっ」と声が出た。わずかな濁りもないうま味がぐいと押し出してくる。これはひょっとして……。

「そうです、イリコ(煮干し)です」と店主の森田史之(ちかゆき)さん(86)が教えてくれた。「イリコは秋の一時期に伊予灘で捕れたものに限っています。頭もワタもそのままです。午前3時に起きてイリコと利尻昆布の一番上等なもので出しを取るんです。かつお節は使いません。醤油はウチ用の特別なものを醤油屋さんにつくってもらっています」

 その出しのうま味で満たされたおつゆが柔らかなうどんに優しくまとわりついて、するすると喉を通る。牛肉や油揚げは薄い味付けをまとって控えている。主役のおつゆを渋い演技でもり立てる寡黙な脇役といったところだ。

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