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記憶の書き換え、マウスで成功 人間はどうする?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/8/11

ナショナルジオグラフィック日本版

緑は「標識された」記憶を示す蛍光タンパク質(PHOTOGRAPH BY STEPHANIE GRELLA)

 近い将来、わたしたちは人間の記憶を書き換えられるようになるかもしれない。本当にそこに踏み込むべきなのか。SF映画のように記憶を書き換えられる世界はいつ実現するのかを考えてみたい。

■そもそも記憶とは何か

 自転車に初めて乗れたときの気持ちを、あなたは覚えているだろうか。初めてキスをしたときや、初めて失恋したときはどうだろう。そうした記憶と感情は、わたしたちの心に長い間残り、蓄積され、わたしたち一人ひとりが形成されるもととなる。一方、深刻なトラウマを経験した場合、恐ろしい記憶は人生を変えてしまうほどの精神疾患の原因ともなりうる。

 もし恐ろしい記憶がそれほど強烈な痛みをもたらさないとしたらどうだろう。人間の脳の発達に関する理解が深まりつつある今、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、アルツハイマーといった疾患で、記憶を書き換える治療法が少しずつ実現に近づいている。

 これまでのところ、実験はマウスなどの動物を中心に行われている。科学者らは人間を対象とした試験を視野に入れつつ、一方で、個人の基礎を形作るものの一部を変えることの意味とは何かという倫理的な問題とも向き合っている。

ポジティブ、ネガティブ、そのどちらでもない中間的な経験など、蛍光タンパク質が特定の記憶と結びつき、研究者はそれがマウスの脳のどこに保管されるかを記録できる(PHOTOGRAPH BY STEPHANIE GRELLA)

 神経科学者は通常、あるひとつの記憶を「記憶痕跡(エングラム)」と呼んでいる。これは、特定の記憶に関係する脳組織の物理的な変化を指す。最近、脳のスキャンによって、記憶痕跡は脳のひとつの領域に孤立しているのではなく、神経組織に広く飛び散るように存在していることがわかった。

 「記憶はひとつの場所というよりも、網のようなものだと思われます」と、米ボストン大学の神経科学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるスティーブ・ラミレス氏は言う。なぜかと言えば、記憶には視覚的、聴覚的、触覚的な要素が含まれており、これらすべての領域の脳細胞から情報がもたらされる、総合的なものだからだ。

 現在の科学は、まるで雪上の足跡を探偵が追跡するかのように、記憶が脳内をどのように移動しているかを追跡するところまできている。

 米マサチューセッツ工科大学に在学中の2013年、ラミレス氏は研究パートナーのシュー・リュー氏と共に大きな成果を上げた。彼らはマウスの脳内でひとつの記憶痕跡を形成している細胞群を操作し、誤った記憶を作りだすことに成功した。このときの実験では、脳への特別な刺激によって、足に電気刺激が与えられるという恐怖を、そのときにマウスがいた実際の場所ではなく、記憶の中にある別の場所と結びつけて覚えさせた。

 マウスの脳は人間の脳ほど発達してはいないが、わたしたちの記憶の仕組みを理解する助けになるとラミレス氏は言う。

「例えて言えば人間の脳は高級車のランボルギーニで、わたしたちは三輪車を使って実験をしているようなものですが、車輪の回り方はどちらも同じです」とラミレス氏は言う。

■脳でコピー、ペースト、削除

 現在の研究において、ラミレス氏のチームは、ポジティブな記憶とネガティブな記憶はそれぞれ別の細胞群に保管されているのかどうか、またネガティブな記憶をポジティブな記憶で「上書き」できるかどうかを探っている。

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