ライフコラム

立川談笑、らくご「虎の穴」

予備校の教師時代にあったこわーい話 立川談笑

2018/8/5

写真はイメージ=PIXTA

もう30年近く前の話をします。私は予備校勤めの先生で、目の前には教え子の生徒たちが20人ほど。受験シーズンが終わった「打ち上げ」的な食事会でのことでした。

「みんなゴメン。聞いてくれるかな。先生な、今月限りで、予備校の仕事を辞めることにしたんだ」

「うっそ!辞めちゃうの?先生これからどうするの?」

「うん、落語家になるんだ」

「ラクゴカ……?」

振り返って思うに、その頃は「落語」という娯楽の認知度が地をはう状態だったのでしょう。耳慣れない「ラクゴカ」という言葉に、全員がキョトンとして理解できません。しばし沈黙があって、国語が一番得意な松井さんが恐る恐る口を開きました。

「それって、ひょっとして……『おわらい』?」

「……んん、なんというか。そう!そんなもんだな。あはは」

体育会系のバイタリティー

若年層にとって落語の認知度がそれほど低かった。そんな時代です。それはともかく、その予備校はおもしろかった。ちょっと珍しい体育系専門の予備校でした。通ってくる高校生たちは運動が得意だけど、スポーツ推薦で進学するほどではない。きっと今も同質の予備校はあるはずです。一般の予備校と違って、教室での座学のほかに実技もある。たとえば、長距離走を終えて着替えもそこそこに、汗をぬぐいつつ生徒たちは国語の授業に臨む、みたいな。

私は国語の担当でしたが、クラスの雰囲気として、運動部らしい独特のあっけらかんとした粗暴さがありました。授業中、指された誰かが問題を間違えると、すぐに教室の全員がその子に向かって「バーカ!バーカ!バーカ!」って。わはは。おまえたち、なんなんだ、と。

そんな彼らが目指す学部の受験問題では、国語なら当時は小説や論説文といった「長文読解」以外に、「漢字」「故事・ことわざ」「文学史」が必ずあって、そこが重要な得点源でした。ですから読解なんかはそっちのけで、来る日も来る日も漢字の書き取り・故事成語・四字熟語・文学史……。みんな毎日頑張ってました。でも、やっぱり元気なんです。

ある時の校内模擬試験での問題が、こちら。

「芥川龍之介は、○○○派である」

ここは「新思潮」派と解答してほしいところです。

ある生徒の答え、「旧田中」派だって。わはははは。分かってボケてんだろう!いやあ、あれこれとずいぶん笑わせてもらいました。

親御さんを交えた三者面談も、当然体育系対応です。

「うーむ。現状の志望校から考えると、彼の場合は国語の漢字書き取りで3点上乗せするか、反復横跳びを2回増やすか、ですね……」っていう。独特の世界で面白いですよね。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL