蒸留所でほろ酔い気分 地ウイスキーの故郷をめぐる

夏休みの旅が楽しみという人は多いはず。あなたがアルコールがいける口なら、ブームに沸く国産の地ウイスキーの故郷に立ち寄ってみてはいかがだろう。各地の小さな蒸留所が注目され、見学できる施設が増え始めているからだ。土地ごとの趣を感じながら味わうウイスキーはまた格別だ。
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「白州12年」「響17年」が販売休止――。5月中旬、サントリースピリッツの国産ウイスキーの供給が止まることが大きな話題となった。反響の大きさの背景には国産品の人気の高さがある。そんな流れを受け、地方の小さな蒸留所にも活気が生まれている。
蒸留釜ながめ食事を楽しむ
JR岡山駅から車で10分ほど走ると姿を現すレストラン「酒工房独歩館」。創業から100年超の歴史を持つ宮下酒造(岡山市)が2017年6月に開業したこのレストランが話題になっている。
秘密はその造りにある。酒工房独歩館にはウイスキーの蒸留所が隣接し、店内から「ポットスチル」と呼ばれるひょうたん型の蒸留釜を眺めることができるのだ。1杯2000円のウイスキーと食事を一緒に楽しめる、ファンにはたまらない空間が広がる。

「車で通るたびに気になっていて、一度来てみたかった」と、7月中旬の土曜日に友人と訪れた岡山市在住の主婦(38)は話す。自宅では「響」など国産の定番ウイスキーを飲むことが多いが、蒸留所付きレストランの珍しさにひかれたという。同レストランには近隣だけでなく、フランスや中国など海外からも訪問客がある。
宮下酒造が造る「ジャパニーズシングルモルトウイスキー岡山」は地元の原料にこだわる。岡山県産の大麦や、同県を流れる旭川の伏流水を使う。加えて、製造工程では祖業の日本酒造りで培った低温発酵を採用し、「吟醸ウイスキー」と銘打つ柔らかな味わいを実現した。
ただ、ウイスキー事業に参入したのは7年前と歴史が浅く、生産量はまだ少ない。ウイスキーの提供はレストランと直営店にとどまるため、しばらくは現地で味わうしかないようだ。
場所を移して長野県。鹿児島市の焼酎大手、本坊酒造が1985年に始めた「マルス信州蒸溜所」(長野県宮田村)が有名だ。駒ケ岳が近くにあることもあって、気軽に立ち寄れる蒸留所として人気が高い。
「基本的には自由に見学してもらっている」と蒸留所売店の冨迫英昭担当主任。事前予約はいらない。樽(たる)が並ぶ熟成用の貯蔵庫、製造棟、最後は試飲コーナーという流れを10分ほどの時間で堪能できる。無料で飲める銘柄もあり、有料のものは1杯数百円で楽しめる。
製造中に体感、香りや熱気

「国産ウイスキーはマイルドで飲みやすい」。7月の平日に見学していた長野県松川町の飲食業の男性(62)も満足した表情。国産ウイスキーが注目される昨今は「半日近く見学していく人もいる」(冨迫さん)とか。残念ながら夏場の今はウイスキー生産は休止中で次の製造は9月初旬からだ。期間中に訪れれば、ウイスキーづくりの雰囲気だけでなく、蒸留釜から漂う香りや熱気を肌で感じることができるだろう。
宮下酒造、本坊酒造以外にも訪れたくなる地方のウイスキー蒸留所は多い。例えば静岡市では新興メーカー、ガイアフローのヒノキでできた蒸留所が今秋から見学を受け付ける予定だ。これらに加え、大手企業の蒸留所の中にはもともと見学可能な施設がある。サントリーは大阪府島本町、キリンビールは静岡県御殿場市の蒸留所で見学を受け付けている。
ウイスキー文化研究所(東京・渋谷)の土屋守代表は「四季のおかげて適度に気候が変化し、水もきれいな日本はウイスキーの生産や熟成に適している」と話す。そして「蒸留釜の造形美を見るだけでも貴重な体験になる」と蒸留所の公開を評価する。ウイスキーを育む土地の雰囲気を味わうだけでも楽しいだろう。ただし、ちょっと一杯を楽しめる施設だけに、現地でレンタカーなど車を利用する場合は"絶対飲まない"運転者を決める配慮をお忘れなく。
(企業報道部 湯前宗太郎)
[日本経済新聞夕刊2018年7月28日付]
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