イクメン育む働き方改革 迎えや家事スムーズに
保育園への送り迎えに家事――。時間に追われながら取り組んでいる共働き夫婦は少なくないだろう。効率的な働き方が求められるなか、近年では企業側も働き方改革の名のもと、職場環境の改善を推し進めている。夫が育児などに積極的に参加すれば妻も仕事がしやすくなるはず。2組の夫婦の事例を紹介する。
三井住友海上は原則19時消灯
三井住友海上火災保険のオフィスでは午後7時になると部屋の明かりが次々消えていく。2017年4月、全社員を対象に原則、午後7時の退社を求め始めたからだ。
この系列オフィス(東京・渋谷)で働く和田真一さん(33)は1児の父。午後7時には退社、自宅に着くと1歳2カ月の息子、研人君の育児を始める。5品ほどのおかずを食べさせ、風呂に入れる。「コミュニケーションの時間が多くとれるので楽しい」と笑顔だ。
真一さんの妻、香さん(34)も同じ会社で営業職として働く。イクメンの真一さんのおかげもあって、普段は育児と仕事が両立しており、夫婦とも満足した様子だ。
しかし、問題は仕事で忙しい時期だ。香さんも午後7時までの勤務を求められる。そうなると、普段は香さんが担当する保育園の迎えができなくなる。真一さんの育児での重要度が増してくる。
香さんの悩みのタネは年末から年始にかけてもありそうだ。海外の代理店との保険の契約交渉でこの期間は多忙な日が続くことが予想される。香さんは「夫の協力がないと、育児はとてもできない」と話す。
過去には長時間労働が目立った損保業界でも、働き方改革が進んでいる。三井住友海上は16年に在宅勤務制度を導入し、真一さんも、妻が妊娠中の時に利用したという。真一さんは「午後7時退社や在宅勤務などの制度がなければ、育児をここまできちんとすることは難しい」と話す。
もちろん真一さんにも繁忙期はある。在籍する経理部は四半期が終わってから忙しくなり、その時は妻の出番。週末には研人君の1週間分の食事を作り置きするなど、夫婦で知恵を出し合って育児をしている。
東洋紡の研究所、終業15分前倒し
「たかが15分。されど育児をする身にとって、夕方のこの時間は大きい」。こう話すのは、大津市にある東洋紡の総合研究所で働く滝井功さん(37)だ。工業用フィルムなどを研究開発する同研究所では4月、退社時間が午後5時15分と、従来より15分短くなった。滝井さんはこれに喜ぶ。
というのも、滝井さんには帰宅してからの育児が待っているからだ。同じ会社で働く妻が仕事のために早めの帰宅ができない場合、滝井さんが息子(5)と娘(2)を保育園に迎えに行く。
退社時間が従来よりも15分早まるだけで、滝井さんは、保育園に迎えに行く前にいったん家に戻る時間ができる。「炊飯器のスイッチを入れる余裕もできる」。その後の家事が円滑に進むかどうかも、この15分が大切な時間になってくる。
東洋紡が昨年4月から始めたベビーシッターの費用補助の制度も使っている。シッターを1日分利用すれば利用料金は1万円以上かかるが、同社は社員の出張時に原則3時間までの費用を負担する。この制度が滝井さん夫婦にとって、働きやすさを後押ししている。
それまでは、夫婦2人とも重要な出張が重なってしまった場合など、どちらかが仕事を諦め保育園の送り迎えをせざるを得なかった。育児を助けてくれる両親が近くに住んでいないからだ。会社が働きやすい環境を整えたことで「僕も妻も、仕事はきちんとした上で、子育てもできている。ここ数年で働き方が変わったことは大きい」。
もっとも、東洋紡の総合研究所では女性総合職が多く、育児への理解も得られやすい。滝井さんは「もっと他の『普通の人』が仕事も育児も両立できるようになってほしい」と話す。
家族で過ごせる改革~取材を終えて~
女性の活躍を支援する「ジャパン・ウィメンズ・カウンシル」の組織で知られる日本IBM。同社の鹿内一郎さん(43)は2児の父親だ。妻はバレエ教室を営み、帰宅が遅くなりがち。鹿内さんは午後4時には退社し、ご飯の用意をする日もある。自宅で仕事できる場合は会社には残らない。
約5万人の就業実態を毎年調べるリクルートワークス研究所によると17年は「勤務時間や場所の自由度が高い」の指標が改善。働き方改革が進んだ。鹿内さんは「育児や家事を『タスク』と考え夫婦協業している人がいるが、そもそも子供と触れ合う時間は唯一無二。貴重だと思う」と話す。
記者が東洋紡を取材した日は滝井さんの息子の誕生日。「今日はケーキを買って、早く帰ります」と、滝井さんはうれしそうに話した。子供の誕生日を家族全員で祝える家庭が増えることも、働き方改革の成果の一つなのかもしれない。(岩本圭剛、田辺静)
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