「ムサビ」、都心で勝負 旗振り役は元出光の剛腕社長武蔵野美術大学の天坊昭彦理事長に聞く

武蔵野美大の理事長になって、まず考えたのは「自分は美術教育については素人。経営の観点からやれることをやっていこう」ということだった。同大も他の大学と同様、受験者数は漸減傾向にあるが、定員割れするほどではない。そのせいか「学内には少子化に対する緊張感が足りないと感じた」。

「職員が先生方を引っ張るくらいになれ」

武蔵野美大の学生は「いま企業で最も必要とされる能力を身につけている」と話す天坊氏

それが如実に表れていたのが、年度ごとの収支計画だ。企業なら中期計画や長期ビジョンがあり、それに基づいて単年度の収支計画を立てていく。しかし、教授会にも事務方にもそうした意識は乏しく、「甘い収支管理になっていた」。そこで各年度の実績と中計を照らし合わせ、厳しく予算を立てるところから始めていった。

組織にもメスを入れた。従来は部課制で縦割り意識が強かったが、グループ・チーム制を導入。組織の壁を越え、一人の職員がいろんな業務に携わるように改めた。「大学は教授会の力が強くなりがちだが、職員のほうが先生方を引っ張り回すくらいにならないと」と意識改革を促す。

一方で、学生に関しては「非常にまじめで驚いた」と話す。授業への出席率の高さだけではない。美大では絵画や彫刻などの実技科目が不可欠。まず何を表現したいのか、自分の考えを組み立ててプレゼンテーションし、それを皆で議論してブラッシュアップする。実際に作品をつくり上げたら、また批評し合う。「それを4年繰り返すのだから、人の意見を聞きつつ相手を説得する高度なコミュニケーション能力と、モノの本質を見極める洞察力は相当鍛えられる」(天坊氏)

実際、デザインを経営に取り入れる米国発の考え方が日本でも徐々に浸透していることもあり、武蔵野美大の出身者が企業で活躍する機会は増えている。天坊氏はさらに「デザイン分野だけでなく、一般企業の総合職でもムサビの学生は十分通用する」と、学校の内外で強調しているという。「就職に強い」という評価は志願者の増加に直結するからだ。

「企業と違い、大学はだいたい毎年、同じ行事の繰り返し。だからこそ、新しいことにチャレンジする気概が必要だ」と天坊氏。新キャンパスは、チャレンジ精神を呼び起こす起爆剤としての意味合いもあるのだろう。その成否はまもなく明らかになる。

天坊昭彦
1964年東京大学経済学部卒業、出光興産入社。出光ヨーロッパ社長、取締役経理部長などを経て2002年社長。09年会長。08年から4年間、石油連盟会長も務めた。12年12月から武蔵野美術大学理事長。

(村上憲一)

マネジメント層に必要な4つのスキルを鍛える講座/日経ビジネススクール

会社役員・経営幹部の方を対象とした、企業価値を高める経営の実務に役立つビジネス講座を厳選

>> 講座一覧はこちら

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら