1泊でも別世界 ランプの湯宿、アジアを望む温泉
キレイになれる温泉の秘密
忙しい毎日を過ごしていると、なんだか疲れがたまってしまって、体が重くてやる気が起こらないときもあります。脳のオーバーヒートや緊張からのストレスで「気」がうまく流れなくなっている、ともいえるでしょう。こういうときは小休止して、1泊でもいいので日常を離れてみては。飛びきり別世界の温泉へ出掛ければ「転地効果」も倍増です。ゆったりと温泉につかって静かな時間を過ごせば、体中に酸素も元気も巡っていきます。
日常と対極の世界、秘湯中の秘湯へ
青森県の黒石温泉郷にある「ランプの宿 青荷温泉」は、「電気もねぇ、テレビもねぇ、もちろん携帯電話もねぇ(ほぼ圏外)」の静かな一夜を過ごせる秘湯の湯宿。現代の日常では決して味わえない別世界です。ランプだけの明るさは、最初はよく見えないと感じるのですが、だんだんと目が慣れてきて、明るく感じてくるから不思議です。
宿の敷地には4つの温泉が点在しています。「健六の湯」は総ヒバ造り。大きなガラス窓から森へと続く景色は、自然の中で木のぬくもりに包まれているような気分。ランプの明かりで癒やしの空気が漂います。つり橋を渡った向こう側には、渓流の水音を聞きながら入る露天風呂、そして、内湯と滝を眺める露天風呂の「滝見の湯」(男女別)があります。
私が一番落ち着くなあと感じたのは、本館の内湯。ヒバ造りの湯船は深めで、肩まですっぽりと温泉につかれます。つるりとした感触の温泉の泉質は、単純温泉。主成分は硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムで、肌しっとりの優しい保湿化粧水のよう。どぼんとつかると、ふんわりと包まれるような感覚が、なんともいえずほっとします。「まあ、のんびりしていけ」と、温泉から言われているようです。
夕暮れが近づくと、ランプ小屋からカランカランと音を立ててたくさんのランプが運ばれてきます。一つ一つランプが掛けられていくと、ふわっと温かい光が広がって、幸せな気持ちになります。
夕食の始まるころは外の明るさも残っているのですが、徐々に日が暮れて、明かりはランプだけになり、まるでキャンドルナイトのようにロマンチックな夕食。夜は、ランプの明かりしかないから、温泉に入るか、ぼーっとするか、星でも眺めるか。などとしているうちに結局、夜9時にはぐっすり。この宿にはどうやら不眠症という文字はないようです。
日本なのに、アジアの真ん中?
いっそ日本を離れて遠くへ行きたい。でも1泊で。はい、そんな願いをかなえる別世界もあります。
熊本県・天草下田温泉「五足のくつ」。天草諸島を地球儀で見たら、アジアと日本の真ん中にあるではないか、と気が付いたオーナーの山崎博文さんが、誰にも邪魔されず、空想に浸れる場所を探してつくった湯宿です。石山に点在するヴィラの部屋には専用の温泉があり、部屋から10歩でいつでも好きなときに自分だけの温泉で過ごせます。
かけ流しの温泉は天草下田温泉。弱アルカリ性のナトリウム-炭酸水素塩泉で、とろとろの感触は美容液のようです。肌の古い角質を優しく落として、すべすべにしてくれる美肌の湯。眺める海は東シナ海。潮風の香り、うっそうとした緑の香り、ほんのりとした温泉の香り。ここは本当に日本かしら? と思ってしまいます。
VillaCの部屋は、アジアンリゾートを思わせるインテリア。キングサイズのベッドが2つあって、ゆったりです。宿には3つの異なるゾーンがあって、VillaAは天草のエキゾチックな集落のイメージ。VillaBは別荘暮らしのようなイメージ。すべて、専用の温泉付きです。
2018年夏に決定する世界文化遺産の有力候補となっている天草の崎津集落は250年もの間、表向きは仏教徒を装いながら、ひそかにキリスト教の信仰を続けてきた人々の歴史が残る地域。宿からも近い場所にあります。そんな天草のキリシタン文化を感じさせる場所が宿の中にも。パブリックラウンジとして利用できるヴィラコレジオは、ステンドグラスが印象的。玄関のしめ縄は、天草ではキリシタンではありませんという印として一年中飾った歴史が今も風習として残っているそうです。 中にはくつろげるライブラリーとバー、ショップがあります。
東シナ海に沈む夕日を眺めて
圧巻のサンセット。天草の太陽は、なぜ、こんなに濃いオレンジ色なのでしょうか。深いブルーの東シナ海とのコントラストが感動的。石山の高台に建つ宿からは、水平線と同じ目線で夕日を眺めることができます。
グレゴリオ聖歌が流れる教会のような雰囲気のレストランが2つ。VillaC専用の天正は海を眺める個室です。
夏の夕食の始まりは、天草の晩柑の爽やかな香りをまとった海鮮サラダ。夏においしくなる天草のタコは、軟らかいのにかめばかむほどうまみがじわっと広がる逸品。エビ、イカのぷりぷりとした味わいもシャンパンによく合います。7月初旬から8月中旬は天草の夏の名物・赤ウニ漁が解禁になります。とろふわ濃厚なウニを楽しむなら、この時期に。
1泊2日でも日本を離れた気分で過ごす温泉旅でリフレッシュ。いいエネルギーがチャージできて、頭も体も心までもすっきり元気になれるはずです。
温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト。日本の温泉・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。
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