口紅で月間売上1位 コーセー、SNS発ヒットの作り方
複数の口紅やグロスを使って作り込んでいたグラデーションリップを、たった1本で手軽に楽しめる商品を作る。そう照準を定め、見た目も機能も斬新な2層構造の口紅「ヴィセ リシェ クリスタルデュオ リップスティック」を生み出したのが、コーセーの上村可奈子氏だ。スマッシュヒットの裏には、吉見直樹氏と共に、パッケージデザインからコピーワークまで、徹底してSNS拡散を狙った施策があった。
同心円のリップで自然なグラデーション実現
発案から商品の完成までに費やした年月は2年以上。満を持して2017年8月に発売したところ、翌9月には口紅市場における月間売上総額で1位を記録。発売からわずか4カ月で、出荷本数が100万本を超える大ヒットとなった。
クリスタルデュオの最大の特徴は、色付きリップ部分と透明の口紅部分が同心円状の2層になっている点にある。「当初はリップ断面の上部に濃い色、下部に透明色といったセパレートタイプを考えたが、その場合、下唇に使う際にリップを回転させる必要がある。そこで中央部分のみをカラーにし、周囲を透明の口紅で囲む形状に行き着いた」(上村氏)。塗ると唇の内側にのみ色が付き、輪郭部分は透明なツヤが出る。結果、自然な血色感のある仕上がりを期待できるのだ。
商品自体の見た目もヒットの要因の一つだ。「口紅の下のスリーブがシルバーだと光が反射し、写真を撮ったときに透明の部分が美しく見えない」(上村氏)ため、スリーブは容器と同じ黒で統一。容器の柄にはファッションで流行しているレースと、口紅のみずみずしさを彷彿させるフルーツの断面をあしらった。結果、「ゼリーのようで可愛い」「今までの商品とは全く違うフォトジェニックな口紅」と話題になり、商品画像と共にSNSで拡散された。
インスタ映えや動画人気でSNSが「バズり」
販促でもSNS上での「バズり」を狙った。ポイントは2つある。
1つは「引き寄せリップ」という概念を前面に打ち出したこと。青みがかった赤は「永遠の愛」、シャンパンゴールドは「金運」など、10色すべてに引き寄せるテーマを設定して展開したところ、インスタグラムでは「#引き寄せリップ」とハッシュタグを付けて口紅を紹介する女性が続出した。
もう1点、発売前から女性誌と連動で、若い女性に人気のモデルとアーティストを起用した恋愛ドラマ仕立ての販促動画を配信したことも奏功した。メイクの力で恋の逆転を叶える――。男女2人の恋を描いた映像は口コミで瞬く間に広がり、動画の再生回数は約150万回に到達。「SNSがある今だからこそ、動画やコピーを組み合わせながら、ターゲットに対して的確な打ち出しができる」(吉見氏)。結果、ファッション感度の高い若い女性たちを「引き寄せた」といえる。
(日経トレンディ 瀬戸久美子)
[日経トレンディ 2018年7月号の記事を再構成]
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