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山田和樹 マーラーの次は約200カ国の国歌に挑戦

2018/6/23

マーラーの交響曲は今やベートーベンと並んで日本で最も人気のあるオーケストラの演目だ。民族国家を持たなかった当時のユダヤ人としてのマーラーの人生は日本人とは全く異質だ。彼の音楽にはそうした境遇からくる苦悩や気晴らし、諦念や誇大妄想などが分裂した響きとなってにじみ出る。にもかかわらず日本人がマーラーの音楽に共感する理由は何か。流動するグローバル経済社会の中で、日本人もよりどころの無さを感じる何らかの状況にいるからではなかろうか。

30代で挑んだマーラー交響曲群の絶壁

「山田和樹マーラー・ツィクルス」と題したマーラー全交響曲シリーズ公演は、2015~17年に日本フィルを指揮してオーチャードホール(東京・渋谷)で開かれた。「大変だったが、30代で願ってもない経験をした」と山田氏は振り返る。未完の「第10番」と「大地の歌」を除く交響曲第1~9番全曲を3期に分けて演奏した。各公演とも武満徹氏の作品とセットの演目にするなど、山田氏の独自性も打ち出された。

マーラー公演はいずれも人気で、チケットの購入が困難だった。16年2月の「交響曲第5番」を1枚2000円の「立ち見席券」を当日買って聴いた。演奏前のトークで山田氏は第1楽章「葬送行進曲」をメンデルスゾーンの「結婚行進曲」の短調と解説した。演奏は山田氏の意図を反映したと思われるところもあれば、普通に流した箇所もあるといった印象だ。中核となる高密度で激烈な第2楽章は、曲の形が壊れるくらいに強調すべき楽器のパートを、もっと多声的に響かせてもよかった。

マーラーと国歌プロジェクトについて語る指揮者の山田和樹氏(東京都文京区のキングレコード関口台スタジオ)

「全公演をライブ録音したが、CD全集にするとは決めていない」と山田氏は言う。すでに出したCDは「第2番『復活』」「第4番」「第6番」の3つ。「交響曲第6番『悲劇的』」(発売元 オクタヴィア・レコード)を聴いた。各パートを緻密に鳴らしているが、金管の響きが軽い。戦闘的な行進曲となる第4楽章では、管弦楽全体で築くべきクライマックスをティンパニやハンマーなど打楽器に依存しすぎているように聴こえる。軍楽調で短調の行進曲による孤立無援の闘いの悲劇性を引き出すのは難しい。

マーラーの交響曲では巨匠の全集がそろっている。マーラーが乗り移ったかのようにその楽譜の極端で異様な指示を最大限に実行したバーンスタインやテンシュテットをはじめ、作曲家の感情を音響にさらけ出す表現主義のアプローチが感動を呼び、高く評価されてきたのは確かだ。山田氏は若い世代として新しい手法を模索したはずだ。「マーラーは借り物競走。自分が持つ具材や調味料だけでは足りない」と話す。しかし過去の名盤を聴くと、マーラーについては指揮者の強烈な自我と個性も必須と思われる。マーラーの絶壁に30代で挑んだ記録として山田氏のCDは貴重だろう。

小澤征爾氏と同様に仏ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝して世に出た山田氏。いま重視しているのがモンテカルロ・フィルの芸術監督兼音楽監督の仕事だ。「僕があまりやってこなかったオペラやバレエの公演もするオーケストラ。11月にはオペラを指揮し、年末にはバレエも上演する。新しいことに挑むのはエキサイティングだ」。交響曲と合唱、さらにはオペラやバレエへと、次代を担う指揮者は巨匠への道を歩み続ける。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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