本場の味でW杯観戦したい 東京丸の内のロシア料理店
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が開幕した。サムライブルーは昨日、初戦を戦った。W杯の時期にはにわかファンも、お酒片手に日本代表や強豪国の試合の話で持ちきりになるものだが、せっかくなら開催地のロシア料理を食べながらサッカー談義をしたいもの。そこで気になるのが、今年3月東京・丸の内ビルディング(丸ビル)にオープンしたロシア料理レストラン「ゴドノフ東京 丸ビル店」だ。
日本のロシア料理店といえば、以前紹介した東京・銀座の「ロゴスキー」(「日本人の舌が育てた味 東京の老舗ロシア料理店」参照)をはじめ、戦後間もなく日本人が開いた老舗料理店がよく知られているが、「ゴドノフ東京 丸ビル店」はモスクワの人気店の日本初上陸店。本店はモスクワ中心部「赤の広場」に隣り合わせた立地に店を構える。
17世紀の修道院の食堂であった場所を利用したレストランで、料理はロシア皇帝にも供されたようなものを含め、300年以上前から貴族や裕福な商人の食卓にのぼってきた伝統的な料理がベース。ただし、それだけでなく積極的に新しい食材を取り入れ、「古典」に止まらない味を提供している。
この味にほれ込んだのが、「ゴドノフ東京」を運営するワールドリカーインポーターズ社長の今里尚史さん。本店を訪れた際に伝統と新しさが合わさったロシア料理に開眼、日本での展開を決めたという。
看板料理は日本でもよく知られた真っ赤な野菜ビーツを使ったスープ、ボルシチだ。旧ソ連ウクライナの料理で素朴な味わいのスープというイメージがあったが、同店のものはオリジナルレシピで、ビーツの量が多いのか驚くほどフルーティー。
現地に研修に行った同店シェフの角田健次さんは「肉をたくさん使っているのに、なんでこの味なんだ!と思いました」と目を丸くする。特徴はそれだけではない。スープには、細切りにした野菜と共になんと牛タンの塊が入っているのだ。
牛タンを使うのは、煮崩れることなくうま味がよく出るため。通常は牛バラ肉などを使用するボルシチの味わいががらりと変わり、フルーティーな味わいと肉々しさが同居する。スープなのに、お酒のお供になりそうな一品だ。
ボルシチにはロシアのサワークリーム「スメタナ」が添えられ、味の変化も楽しめる。日本のサワークリームより酸味が少なくバターのようにリッチで、スープに落とすとクリーミーなまろやかさが加わる。これは、ロシアの代表的お酒であるウオッカにも合いそう。
「ゴドノフ東京」では、様々なウオッカもラインアップしていて、ボルシチの故郷ウクライナのフレーバーウオッカもあった。ハチミツと唐辛子、バーチ(白樺)といった珍しいフレーバーがのぞき、バーチなどフルーティーな味わいだというウオッカは、ボルシチとの相性が良さそうだ。
もっとも、ロシア料理と一緒に楽しむお酒ならウオッカが定番だろうと思っていたら、「向こうでは、ビールもとても人気なんですよ」とは店長の建石裕也さん。
なんでも近年はウオッカの消費量が下がり、ビール人気が高まっているらしい。「ゴドノフ東京」でも一番人気は、ロシアの生ビール。その他、同店ではワインのラインアップも豊富で、ロシア産の赤白ワインはもとより、スパークリングワインまでグラスで飲める。
人気料理にはロシアの総菜パン、ピロシキ各種やサワークリームのソースがかかったビーフストロガノフといったおなじみのロシア料理が並ぶが、店にはW杯の試合を放映するモニターまである。観戦しながらの食事はお酒がぐっと進むはず。
そこで、お酒に合う料理を聞いてみるとすかさず挙がったのが、ロシア屋台の定番料理「シャシリク」だった。串刺しの肉のバーベキューで、同店ではスパイスが効いた味付けにしている。
もう一つのお薦めは、「ボジュニナ」と呼ばれる自家製ハム。ニンジン、アスパラガス、ニンニクなどの野菜を豚の肩ロースに詰め、表面に香りの強い香辛料であるマスタードなどを塗り焼き上げたものだ。もともとはロシア皇帝にも愛された料理らしい。
細かく切ったビーツ、キュウリ、ジャガイモ、リンゴ、ピクルス、ベーコンなどを合わせたさっぱり味のピンク色のサラダ「サラダ オリビエ風」など、同店の料理には今時女子好みのインスタ映えしそうな料理が並ぶ。
ちまたにこれだけフランス料理やイタリア料理があるのだから、ロシア料理ももっと世の中に広まって欲しいと思う。かつての宮廷料理だけでなく、ロシア料理には、ボルシチのように今は別の国となった地域の料理も多く、その背景も面白い。
この「ゴドノフ東京」、店の奥にある大きな窓に面した席からは、赤の広場ならぬ、昨年末に完成した東京駅丸の内駅舎前の広場が一望できる。デートにも使えそうな特等席だ。
同店で女性に人気の飲み物に「モルス」というジュースがある。ベリー類を使ったロシアでポピュラーなジュースで、同店ではジャムやフルーツジュースを合わせてオリジナルのモルスを作っている。「これとウオッカと合わせるとおいしいんですよ」と建石さん。甘いフルーツジュースと合わせたウオッカは口あたりがよく、広場の風景に見入りながら飲めば、つい飲み過ぎてしまいそうだ。
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(フリーライター メレンダ千春)
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