アップルが恒例の世界開発者会議WWDC(ワールドワイド・デベロッパー・カンファレンス)を開催した。事前に噂されていたiPhoneの廉価版やiPadの新機種などハードウエアは発表されなかったが、iOSなどソフトウエアで様々な強化が公表された。MONO TRENDYで記事を連載している佐野正弘氏、西田宗千佳氏に加え、辛口評価記事で人気の戸田覚氏に、今回の発表について分析してもらった。
戸田氏:iOS 12で古い製品が快適になれば高く評価
アップルが初夏に新製品を発表するWWDCが2018年も開催された。今回は新しいハードウエアはゼロという肩すかしの状況だった。すでに、iPhone Xの目新しさは薄れ、iPhone 8は画面の解像度を見ても周回遅れになっていることは間違いない。それでも業績は絶好調というブランド力はすさまじいばかりだ。あえてハードウエアを投入せずに、小粒なソフトウエアのアップデートにとどまっているのも、自信の表れだと考えてしまう。

目立っているのは、iPhone、iPad用のOSの新バージョン「iOS 12」にAR(拡張現実)※機能が盛り込まれていること。ARはちょっと使うぶんには楽しいけれど、のめり込みそうなコンテンツがないだけに今後に期待したい。カメラを物体に向けると、その長さが測れるAR定規アプリの「Measure」は、精度が高ければ家具選びなどの際に便利そう。とはいえ、ARの各種アプリや定規アプリはすでにサードパーティーから提供されているので少々拍子抜けだ。
※AR 実際の風景に、コンピューターグラフィックスを重ねて表示する技術。代表的な例にポケモンGOがある。

iOS 12はiPhone 6sなどの古い製品でも動作が高速になっているという。これが体感できるほど速くなるなら、僕はその姿勢を高く評価する。高くてもアップル製品を買えば末永く快適に使えるのだから。他にもSiri※や通知※が改善されるなど小さな進化の発表は多かったが、ユーザーの期待する発表がなかったのは残念だ。
※Siri iPhoneやiPadなどで利用できる音声アシスタント。「メッセージを送って」など、人に話すようにiPhoneやiPadに向かって指示を出せる。
※通知 アプリからの情報やその日のスケジュールなどを一覧する機能。ロック時の画面に表示できるほか、指を画面の上端から下にスワイプすることでいつでも表示できる。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
佐野氏:コミュニケーションの進化に注目
今回のWWDCで筆者が注目したのは「コミュニケーション」である。
それを象徴するのが、ユーザーの顔の動きに合わせて絵文字が動く「Animoji」を自分の顔にカスタマイズできる「Memoji」と、最大32人が同時にテレビ電話できる「FaceTime」だ。機能の一つひとつを見れば既に存在するものだが、それらを組み合わせ、さまざまな顔が画面上に並んで会話する様子を見ると、スマートフォンの本質でもあるコミュニケーションの姿を、アップルが大きく変えようとしている様子を実感できる。