アジアの三大チキンライス 東京で食べ比べてみると…
「チキンライス」といえば、かつては「鶏肉入りの洋食ケチャップライス」を思い浮かべたものだろう。ところが昨今は、そうではない。ゆでた鶏肉と、そのゆで汁で炊いた香りのいいご飯に、唐辛子やショウガのソースをかけて食べる料理がチキンライス。主にシンガポール、タイ、マレーシアといった東南アジアの名物料理として親しまれている。
日本でも専門店などで食べることができ、炊飯器で簡単に作れるチキンライスの素まで登場。しかし、よく見ると国によって少しずつその様相が異なるのだ。似て非なるシンガポール、タイ、マレーシアの3大チキンライスを徹底比較してみよう。
まずはシンガポールのチキンライスから。
チキンライスは中国・海南島出身の華僑が東南アジアの各国に広めたのがその原型と言われるが、シンガポール、タイ、マレーシアのチキンライスのうち、一番その原型に近いとされるのがシンガポール。国民の74%を中華系が占めているシンガポールは、外食比率が非常に高く、飲食店の集合施設である「ホーカー」が100カ所以上もあり、そのほとんどに海南式のチキンライス専門店があるほどだ。まさにシンガポール人のソウルフードの1つである。
3カ国のチキンライスの違いを知る上で重要なのがソース。「ご飯+ゆで鶏」は3カ国ほぼ共通しているが、ソースが全く違うのだ。シンガポールのチキンライスには、中国黒じょうゆ、チリソース、ジンジャーソースの3種類がマストアイテム。チリやショウガの辛味はあるがさっぱりしていて、日本の甘露じょうゆのような甘みのある中国黒じょうゆがマイルドにまとめてくれる。
3種のソースはそれぞれが容器に入ってテーブルにセッティングされているか、小皿に添えて提供されるのが一般的。好みでカスタマイズできるので、辛味をガッツリきかせたり、逆に辛味が苦手な人は控えたりすることも可能だ。
シンガポール人が特に重視するのはゆで鶏の軟らかさ。絶妙の火加減で、脂肪分の少ないムネ肉でもしっとりと軟らかく仕上げている。また、店によっては、ゆでた鶏肉を冷水にくぐらせる方法もあり、これは鶏肉をプルンとした食感に仕上げてくれるのだとか。食感にもこだわるシンガポール人を夢中にさせるのがチキンライスなのだ。
ちなみに、日本でシンガポールの本格的なチキンライスを堪能するならば、「威南記海南鶏飯(ウィーナムキーハイナンチキンライス)」(東京・港区)などがおすすめ。実は、現地でも「四大チキンライス」の称号をもつ超有名店でもある。シンガポール人お墨付きの味が楽しめるだろう。
タイのチキンライスは「カオマンガイ」。日本でもシンガポールのチキンライスと人気を二分するタイの代表的な屋台料理だ。シンガポールよりも刺激的で、クセになる味わいを楽しめる。
タイの首都バンコクでは、約80%が中華系タイ人なので、街の至る所にカオマンガイ専門店があり、日本に上陸している人気店もあるほどだ。
カオマンガイのソースはダイズから作った味噌のような調味料「タオチオソース」に生のニンニクやショウガ、パクチーの根などを加えたかなり刺激的もの。タイの味覚の特徴である甘味や辛味のメリハリがしっかりしていて、香味野菜の味や香りも効いて、食欲を刺激してクセになる味わい。シンガポールのように味のバリエーションは楽しめないが、満足のいくソースだ。
たっぷりの鶏脂で炒めたニンニクやパクチーの根と、鶏ガラスープをジャスミン米に加えて炊くことで、他の国のチキンライスよりも香りが高く、より艶やかに炊き上げているのがカオマンガイの特徴だ。タイではよりオイリーに仕上げている。これからの季節、夏バテしそうな時にガッツリ食べたくなるのがカオマンガイなのかも。店によっては、鶏肉に鶏の血を固めた血豆腐やレバーやキンカンが添えられていることも。ご飯に鶏内臓が乗る点は、「丸ごと鶏一羽を使用している」ことの現れだろうか。
日本で本格カオマンガイを味わうならば、その味を求めて世界中から訪れるというバンコクの「ラーン・ガイトーン・プラトゥーナム」の日本1号店「ガイトーンTokyo」(東京・渋谷区)などがおすすめ。本店にはないパクチーの食べ放題があるので、パクチー好きな方は試してみては?
マレーシアの北西部に位置するイポーという街には、まるで日本の浜松ギョーザのようにモヤシが添えられてるチキンライスがある。一方で、世界遺産の街マラッカには、おにぎりのようにごはんを丸くしたものも。
3カ国の中でも、民族・地域ごとにチキンライスのバリエーションが多く、チキンライスの宝庫といえるのがマレーシアなのだ。マレー系(67%)、中華系(25%)、インド系の人々が混在する多民族国家で、シンガポールと同じ海南式のチキンライスがメジャーだが、独自に工夫されたマイナーなご当地チキンライスがたくさん存在している。
元来、中華系の料理であったチキンライスだが、マレーシアの国民の多くを占めているマレー系にも浸透し、「ナシアヤム」というチキンライスに変化し、圧倒的な支持を得ている。
マレー系民族の嗜好に合わせて調理工程や味わいも変化している。例えば、ソースは1種類だが、チリソースにトマトやパプリカを加え、よりフルーティーな味に仕上げている店もある。
さらにこだわっている店では、クローブと八角入りの湯で鶏肉をゆでた後、ハチミツと中国黒じょうゆのタレに漬け込み、さらにオーブンでローストするという独自の調理法を採用。
二度火入れをすることで余分な水分が飛び、肉は引き締まってドライになる。これがマレー系民族の好みに合った食感なのだという。しっとり軟らかな肉を好むシンガポールとは違うのだ。
中華系マレーシア人が運営する東京・渋谷の「マレーアジアンクイジーン」のチキンライスは、3種のソースにゆで鶏と一見、海南式と同じに見えるが、ソースは独自に工夫していてマレーシアらしさのある味わいだという。
なかなか奥深いチキンライス。上記に紹介した都内の店に行けば、各国のチキンライスを食べることはできるが、一度に食べ比べてみたいという向きには、こんなイベントはいかがだろう。
タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア4カ国の料理の食べ比べをテーマに活動をしているごはん比較探Qユニット「アジアごはんズ」では、東南アジア4カ国のチキンライス食べ比べイベントを不定期で開催し、前回は70人以上が参加し、盛り上がったという。
「チキンライスはルーツが同じなのに、完成した料理は各国・地域で似て非なるもの。1つの国だけだと『点』でしか見れないことが、各国の違いを知ることでそれらがつながって『線』になり、その違いに食文化の奥深さを感じ、ワクワクしました」(アジアごはんズ伊能すみ子さん)。参加者からは「ソースがこんなにも違うなんて食べ比べて初めて気がついた!」「現地でも食べてみたい!」などの感想が上がったという。
各国のチキンライスをすでに食べたことのある人には、改めてその違いを知っていただけるのではないだろうか。これからエスニック料理が恋しくなる季節。未体験の人もこれを機にチキンライスの食べ比べをしてみてはいかがだろうか。
(GreenCreate)
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