ボルトとアベベが一体に 日産、夢のエンジンの実力

木賀 まずは17年末発売のインフィニティQX50と、今春発売の日産アルティマからです。

日産はEVしかやらないとは言ってない

小沢 可変圧縮比エンジンは、歴史ある技術なんですか。

木賀 昔から実現が夢とされていた技術です。今、マツダさんがやられているように高圧縮比エンジンは燃費面では理想的なんですが、どうしてもパワー面でツラくなる。そのデメリットを解決できますし、そうでなくともクルマほど過酷かつ幅広い環境で動いている内燃機関はありません。本来まわりの暑さや寒さ、気圧、走行スピードなどいろんな要素ごとに最適な圧縮比があるんですが、それを今まで無理やり1つで済ませていたので。

小沢 ところで木賀君と僕は一応、同じ大学の理工系学部のほぼ同期生なはずですが、ぶっちゃけそんなに天才肌でしたっけ?(笑)。

木賀 もちろん根本を考えたのは僕ではなく(笑)、日産総合研究所の青山俊一さんという60代の方と、僕らと同世代の茂木克也という人間が2人でパテント(特許)を出しました。僕は実際にエンジン開発を担当したまとめ役です。

小沢 ということは木賀君ではなく、その2人が大金持ちになる?

木賀 そこは分かりません(笑)。

小沢 実際どの辺が苦労したんでしょうか。そもそも最初の発想はどれくらい前のことで。

木賀 20年前です。

小沢 20年前! どんな歴史があるんですか。

木賀 当初あったのはモデル原理です。理屈はできていたものの、リンク機構にしても当時はいいギアがなく、代わりに巨大モーターを付けるなどしていたため、とてもクルマに載せられるようなものではありませんでした。それが第1世代で、第2世代は一応カタチにはできましたが、メカにかかる応力が非常に大きく、エンジンを2000~3000回転ぐらいしか回すことができなかったんです。

小沢 本来ものすごい力が掛かる真っすぐなコンロッドに妙なリンクが付いてるわけですからね。そりゃ力も逃げますわな。

木賀 次に試作ができたとしても、それを量産化し、我々のエンジン工場で造れるレベルにしなければいけない。この段階が第3世代でしたが、それでも完成しません。それからエンジンのキャリブレーションが無段階にできることになる。

小沢 そうか! 燃料の吹き方のマッピング、バルブ開閉タイミングやリフト量など、設定しなきゃいけない項数が飛躍的に増えるんだ。

木賀 1つのエンジンに2つも3つも違うキャラクターが存在するわけだし、しかもそのツナギ特性も考えなければいけない。

小沢 実際に走ってみたらアクセル踏んだとたんビヨーンと突っ走ったり?

木賀 最初はまさにその通りで「オマエら、レーシングエンジン造ってんのか?」と言われたこともあります(笑)。

小沢 なるほど。1つのエンジンの中にマラソンランナーと短距離ランナー、アベベとボルトがいるようなもんですからね。キャラ作りが大変だ。

木賀 やることはものすごく多かったです。

小沢 エンジン技術ってまだまだ先があるんですね。しかもそれをEVの日産が開拓し続けていることに驚きました。

木賀 そこにもちょっと誤解があって、日産はEVしかやらないとは言ってないんです。「ウェル・トゥ・ホイール」、つまり井戸(油田)からクルマまでというトータルなエネルギー効率で考えると、EV普及も大切ですが、ガソリン自動車もドンドン性能を上げていかなきゃならない。

小沢 木賀君、やっぱり頭良くなりましたね(笑)。

木賀新一。青山学院理工学部を卒業し、日産自動車入社。日産自動車第一パワートレイン開発本部パワートレイン主管。日産名車再生クラブ代表も務めている
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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