「地ソース」路線突き進む GEで見付けた自分の強み
鳥居食品 鳥居大資社長(下)
鳥居食品の鳥居大資社長
米スタンフォード大学の大学院を修了して三菱商事に入社し、米ゼネラル・エレクトリック(GE)で幹部候補としてもまれた鳥居大資氏は、静岡県にある実家のソース会社「鳥居食品」を継いだ。「実家に帰ると決めたのなら10年間は東京に戻るな」という元上司の言葉を胸に、廃業寸前だった会社を継承。父が残した無形の「ソース遺産」を発展させようと奮闘を続けている。(前回記事「米GEの『虎の穴』から脱落 静岡のソース老舗3代目」参照)。
WTC(ワールド・トレード・センター)に近い、斜め隣のビルで9.11テロを目撃したのは、三菱商事からGEに転職して2年目のことでした。よく聞かれるのですが、それで人生観が大きく変わったということはありません。
あのときは、同じ幹部養成コースに配属された5人のメンバーと一緒でした。2機目がWTCのビルに激突するのを目撃した瞬間、全員が家族に電話をし、PCをシャットダウンすると、すぐにそれを持って安全な場所へと避難しました。
整然としていました。落ち着いてもいました。下世話な言い方になりますが、危機のときほどリーダーシップが試されることは、みなわかっています。自分のやるべきことはもちろん、周りの人に対する気配りも忘れない。これが米国人の危機管理意識の高さなのだろうかということも感じました。
東京に戻り、1年半で父が入院
辞める直前は、東京にあるGEのグループ企業にいたんです。そのころにはもう、浜松の実家に戻って家業を継ごうという気持ちになっていましたから、日本にあるグループ企業、それも対法人ではなく個人向けの事業を経験できるポジションをあえて選びました。
そこに2年間勤務して実家に戻るつもりが、1年半で父が倒れ、入院し、予定を半年繰り上げて実家に戻ることに。GEを辞める際、三菱商事時代の上司に会い、「家業を継ぐことになった」と伝えると、こんなことを言われました。「帰ると決めたのなら、10年間は東京に戻ってくるな。とにかく地元に根付いて、地元の人に認めてもらうまで、一切、東京には来るな」
それを聞いてふと、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のワンシーンが思い浮かびました。僕はあの映画が大好きで、中に同じようなせりふが出てきます。映写技師のアルフレードが若い主人公に向かい、「村を出ろ、二度と戻るな」という趣旨のことを言うんです。
上司に「東京に来るな」と言われた瞬間、そのシーンが頭に浮かんだものですから、浜松に戻ってからもたびたびその言葉を思い返し、「そうか、今は東京に行っちゃいけない時期なんだ」と自分自身に言い聞かせていました。