土地の旬がずらりと並び、地元の味覚が人を呼ぶ。
食べて良し、飲んで良し。魅力満載の市場を巡ろう。
やり取りも思い出 食のワンダーランド
肉あり、魚あり、野菜あり。旅先で訪れる市場の楽しみは、その土地の新鮮な食材がズラリと並ぶことだろう。沖縄の市場では珍しい熱帯魚のような魚が目を引き、北海道ではサケやカニが売り場を占領する。最近はそこに飲食が加わり「食のワンダーランド」化が加速。地域の食文化に目と味覚で触れることができる。
1位になった近江町市場や8位の錦市場では外国人観光客が増え、店頭で買って食べるスタイルが定着してきた。近江町市場の一角には金沢おでんや地酒を楽しめるコーナーもある。「旅行者でも市場の雰囲気に溶け込め、寂しさが解消される」(柳沢美樹子さん)。自分好みの海鮮丼をその場で作れる「勝手丼」は5位の釧路和商市場が発祥とされる。どの食材を載せようか悩み、店の人とのやり取りが旅の思い出になる。
ほとんどの市場は早朝からの営業で、唐戸市場周辺では「ホテルではなく市場で朝食をとる旅行者が増えている」(JTB西日本)。一方、高知県の久礼大正町市場が活気づくのはお昼ごろ。南国のおおらかな時間に身を任せるのも旅の醍醐味だ。
寿司に日本酒、あつあつのおでんも(金沢市)
北陸新幹線の開業で観光客が増えた金沢市の人気スポット。名称は近江商人に由来し、地元では短く「おみちょ」と呼ばれる。「能登・加賀・越中と日本海の食材が集まる金沢の台所。昔の市場風情が残る中で、旬の魚介や地元の野菜など多彩な特産がずらり。この景観とにぎわいが見どころ」(阿比留勝利さん)。市場には約200店が軒を連ねる。
「海の幸から野菜、果物、ラーメンまで、なんでもそろう近江市場はやはり冬が似合う。獲れたてのネタを使った寿司ときりっと冷えた日本酒を。体が冷えたら金沢おでんを食べて温まれる」(北村武史さん)。この時期、店頭にはカニが並び、ホタテやカキなどを1個から販売する店が多い。地酒や刺し身をその場で楽しめるフードコートがあり、春になればアナゴや山菜も。兼六園、金沢21世紀美術館も徒歩圏内で街歩きに便利。
(1)JR金沢駅(2)電話076・231・1462
カツオのたたきでビールでぐびっ(高知市)
高知市の中心部に1998年にオープンした巨大な屋台村。生鮮市場ではないが、飲食店約40店と土産物などの物販店約20店が混在し、高知の代表的な食材と料理が1カ所で楽しめる。「カツオのたたきや芋けんぴなど郷土色が豊か」(雨宮健一さん)。各店舗で購入した食材や料理はテーブルに持ち寄って飲食できる。
「わら焼きのカツオのたたきでビールも酒も進む。常連さんとも仲良くなれるのがうれしい」(富本一幸さん)。「平日の昼間から、地元の人と観光客とが一緒にお酒を酌み交わすにぎやかな様子は見て回るだけでも楽しい。一度足を運んだら、やみつきになること間違いなし」(北村さん)と、南国・高知ならではの開放的な雰囲気が人を引き付ける。高知城とはりまや橋のほぼ中間にあり、「高知に来たらぜひ寄ってほしいスポット」(中村敏子さん)。
(1)とさでん大橋通停留場(2)電話088・822・5287
フグも関門海峡も満喫(山口県下関市)
下関といえばフグ。関門海峡に面する市場には玄界灘、瀬戸内海、東シナ海の魚が並ぶ。早朝から営業を始める場内では、仲卸業者に沿岸漁業の漁師が加わり、威勢のいい掛け声が飛び交う。魚介のほか、農産物の直売店もあり、一般客も朝から買い物や食事を楽しめる。
毎週金、土、日曜と祝日に開く飲食イベント「活きいき馬関街」が人気。「各店舗自慢の海鮮食材を使った寿司、刺し身、から揚げ、煮つけ、ふく汁など新鮮な海の幸が店先に並び、観光客と地元業者との楽しげなやりとりが週末の風景としてすっかり定着」(中村さん)した。海に面したウッドデッキや屋上の芝生に持ち出せば、眼前の関門海峡の景色と味を一度に満喫できる。源平の昔から歴史の舞台となった場所だけに周辺には多くの史跡がある。水族館「海響館」も人気だ。
(1)JR下関駅(2)電話083・231・0001
一見地味な定食屋 確かな実力(東京都中央区)
築地市場の場内は2018年10月に豊洲への移転が決まったが、「場外」は現在地で営業を続ける。日本を代表する鮮魚の市場を控えるだけに「全国各地から集まる新鮮な食材を使った飲食店がたくさんあり、ハシゴして楽しめる」(雨宮さん)。
「市場で働く人が毎日の食事に利用する店が多いので、ごく普通の食事がちゃんとおいしい。一見地味な定食屋に入ってみることをおすすめする」(柳沢美樹子さん)。調理機能を持った「築地食まちスタジオ」があり、一般向けの料理教室や講座開催にも力を入れる。
(1)東京メトロ築地駅など(2)電話03・3541・9466
場内回り、好きなネタで「勝手丼」(釧路市)
JR釧路駅から歩いて5分足らず。戦後の露天商から発展した市場の楽しみは、自分好みで作る「勝手丼」だ。場内を回り、好みの刺し身や魚卵を買ってご飯の上に載せると、オリジナルの海鮮丼が完成する。「カニ、ウニ、サケ、ホタテと北海道を代表する魚介類をちょっとずつぜいたくに食べるのが醍醐味」(木庭清美さん)。ご飯や味噌汁と組み合わせれば「勝手定食」になる。
「市場ならではの食が自由に味わえるよう、ユーザーの視点で工夫しているところが評価できる」(柳沢さん)。市場は夕方まで開いていて、外国人観光客にも人気だ。
(1)JR釧路駅(2)電話0154・22・3226
釣ったイカ その場でさばく(函館市)
北海道を代表する朝市の1つ。戦後スタートした青空市場が始まりで、今では全国から観光客が訪れる。3万平方メートルの敷地に、約250店。鮮魚や乾物から農産物まで、北海道の物産が1カ所に集まる。「市場の雰囲気を存分に味わえる。街の中心に近く、ホテルから朝食を食べに行けるのも大きな魅力」(中村さん)。「新鮮なイカやウニ、イクラなどが手ごろな値段で購入でき、周辺にはそれらの食材を使った食堂などが立ち並ぶ」(青木之さん)
函館といえばイカ。「市場内にイカの釣り堀があり、釣ったイカをその場で刺し身にさばいてくれる」(北村さん)という鮮度が魅力だ。
(1)JR函館駅(2)電話0138・22・7981
色鮮やかな魚 琉球気分に酔う(那覇市)
目抜きの国際通り近くで、60年以上続く公設市場。色鮮やかな魚や豚の足(テビチ)にゴーヤー、島豆腐など沖縄料理に欠かせない食材が目を引く。「色とりどりの魚類やカオス的雰囲気は沖縄ならでは」(阿比留さん)
「沖縄独自の食文化を五感で感じられる。『ここはアジアだ』という独特の雰囲気があり、市場を歩いているだけでも旅情を感じる」(青木さん)。市場には「持ち上げ」というサービスがあり、1階で買った食材を2階の飲食店に持参すれば、その場で料理してもらえる。「地元のオリオンビールや泡盛とともに琉球気分に酔える」(富本さん)。
(1)ゆいレール牧志駅(2)電話098・867・6560
海の幸に加工品 京の食凝縮(京都市)
京料理を支える伝統の市場。幅3メートル余り、長さ390メートルの細長い通りの両側に店舗がぎっしりと並ぶ。「風土が育む京野菜、若狭から旧鯖街道を経て運ばれる海の幸、漬物・とうふ・塩昆布、菓子など都らしい加工食品。買うだけでなく食べる、飲むなどが複合した市場と、凝縮された京の食文化が見どころ」(阿比留さん)
最近は外国人観光客が増え「いろんなものを、ちょこっと食べるスタイルが確立」(柳沢さん)し、食べ歩きの楽しさが味わえる。イタリア・フィレンツェ市のサンロレンツォ中央市場と友好協定を締結し、食文化の交流にも力を入れている。
(1)阪急河原町駅など(2)電話075・211・3882
カツオの国で わら焼き豪快に(高知県中土佐町)
カツオの本場の漁師町にある庶民的な市場。朝どれ、昼どれの鮮魚が並ぶ昼ごろから夕方まで営業し、「買うていかんかぇ」と土佐弁の威勢のいい掛け声が飛び交う。「ランチ時間には、どんぶりごはんの上に選んだネタを載せて食べる『久礼丼』が人気。豪快なカツオわら焼きもカツオの国土佐ならでは」(井門隆夫さん)。「季節感が感じられて魚が新鮮で、地域性もあっていい」(藤原昌高さん)
土佐久礼は漫画「土佐の一本釣り」の舞台にもなった港町。「防波堤に椅子が並び、老人が海を眺めながらおしゃべりしている。漫画の世界がそのまま広がる」(富本さん)。
(1)JR土佐久礼駅(2)電話0889・59・1369
安くてうまい 玄界灘の魚ずらり(福岡市)
玄界灘、日本海や東シナ海などの漁場でとれた新鮮な魚介類が集まる全国有数の鮮魚市場。一般消費者も専用通路から自由に見学ができる。「レシピの提案などで調理法をきめ細かく伝えるなど、魚食文化の普及にも熱心」(柳沢さん)で、毎月第2土曜日は市民が買い物できる「市民感謝デー」として開放する。
「鮮魚がずらりと並ぶ1階の食堂街は安くてうまい。夜遅くまで飲める店もあり、福岡では外せないスポット」(井門さん)。「サバの刺し身が食べられるのは福岡ならでは」(北村さん)。そして「締めはここが発祥の長浜ラーメンで」(古賀学さん)。
(1)地下鉄赤坂駅(2)電話092・711・6412
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ランキングの見方 数字は選者の評価を集計した点数。市場名(所在地)。(1)最寄り駅(2)問い合わせ先。写真は1、2、4位瀬口蔵弘、5位田辺省二撮影。ほかは各施設や自治体などの提供。
調査の方法 生鮮流通や観光に詳しい専門家への取材を基に、全国28の市場をリスト化。地元の新鮮な食材が集まる、その場で飲食できる、近年魅力度が上がっているなどの観点で1~10位の順位をつけてもらい、集計して点数化した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
▽青木之(クラブツーリズム)▽阿比留勝利(城西国際大学客員教授)▽雨宮健一(KNT―CTホールディングス)▽井門隆夫(井門観光研究所所長)▽北村武史(日本旅行総研)▽木庭清美(地域PRプランナー)▽古賀学(松蔭大学観光メディア文化学部教授)▽富本一幸(トラベルニュース)▽中村敏子(JTB西日本)▽藤原昌高(ぼうずコンニャク)▽柳沢美樹子(旅行ライター)
[NIKKEIプラス1 2018年2月24日付]
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