コーヒー畑が広がるコスタリカの山地

この豊かな自然を守るために国土の4分の1が国立公園・自然保護区に指定されており、電力も98パーセントが再生可能エネルギー。将来的には排出される二酸化炭素の量をその吸収量と相殺する「カーボンニュートラル」を目指しているという「環境先進国」である。観光を通じて自然保護や環境保全への理解を深める「エコツーリズム」にも力を入れている。

私もそんなコスタリカの豊かな自然に触れるべく、コスタリカ最大の活火山「アレナル火山」と麓の温泉に入るツアーに参加したときのことだ。首都サンホセから目的地に向かう途中のバスで、ガイドがこんなことを言った。

「コスタリカの最大の産業は観光で次が農業。農産物の輸出額はバナナとパイナップル、コーヒーの順に多く、今、バスが走っているこのあたりもコーヒー農園がたくさんあります。このあたりでは世界的に最高品質として有名な『ゲイシャ』と呼ばれるコーヒーをつくっているんですよ」

なぬ、ゲイシャコーヒー? 

コーヒーの実「コーヒーチェリー」

恥ずかしながら私はコスタリカに行くまで「ゲイシャ種」のことを知らなかった。私の頭の中には着物をお召しになった芸者さんが「コーヒー、どうどすか?」と勧めてくれるイメージが渦巻いた。おそらくこの名前を聞いた日本人はみんなそうなんじゃないだろうか。

これはきっとその品種の開発に日本人がかかわっていたに違いない。そして、日本といえば「フジヤマ」とか「ゲイシャ」という発想でそんな名前になったに違いない。私はそう勝手に想像した。

ガイドはゲイシャコーヒーについての説明をしてくれた(私が冒頭に書いたのはガイドからの受け売りである)。コーヒーの国際品評会で過去には1ポンド(約450グラム)当たり601米ドルの破格値で落札されたこともあるという。

もう一つ、そのガイドが興味深いことを言っていた。コスタリカならではのコーヒー豆の処理の仕方があるという。コーヒー豆はご存じかと思うが、「豆」ではない。コーヒーの木になる赤い実「コーヒーチェリー」の種子である。

果肉を取り除き種子を出す方法にはいくつかあり、世界で幅広く採用されているのが「ウオッシュド」(水洗式)という方法。これは機械で外皮と果肉を取り除いた後、種子を水で洗い流し乾燥させるというものだ。

「ウオッシュド」(水洗式)のコーヒー豆 種子のまわりの粘着質を水で洗ってから乾燥させる

この方法だと種子のまわりの余分な成分がきれいになくなるのでスッキリとした雑味のない味わいになるのだが、種子を洗った廃液が環境破壊につながるとの指摘もある。そこで、コスタリカでは機械で外皮と果肉を取り除いた後、水で洗わずに乾燥させる方法を多く採用しているという。さすがは環境先進国!

コーヒーチェリーの果肉は甘いので、洗わないことでまるではちみつのような、キャラメルのような甘い香りが生まれるとのこと。この精製方法を「ハニープロセス」と呼ぶ。

ジャスミンみたいでパッションフルーツみたいで、さらにハニーでキャラメル? いったいどんなコーヒーなの!? 私は興味津々になった。そのツアーではトイレ休憩や食事休憩のためバスは何度かお土産屋さんやレストランに立ち寄った。コーヒーやコーヒー豆を売っているところがあったので、その都度ゲイシャコーヒーを飲もう・買おうと試みたが、置いていない。店員に聞いてもないという。

種子のまわりの粘着質を水で洗わずにそのまま乾燥させるコスタリカ式「ハニープロセス」 焙煎する前なのに豆の色が濃い

日本でもマツタケなどの高級品は産地には流通せずに築地に送られるという。きっと最高級のコーヒーも産地周辺には売っていないのだ、とこれまた勝手に解釈した。が、手に入らないと、ますます飲みたくなるのが人情というものである。

その日は結局、ゲイシャコーヒーにありつけぬまま、温泉を堪能した後、ホテルに戻った。そして、ゲイシャ種について調べてみると、エチオピアの「ゲシャ」村に在来する品種だと分かった。

話はちょっとそれるのだが、私がかつてエルサルバドルに滞在していたとき、コーヒー農園を併設する温泉施設を訪れたことがあった。その農園ではコーヒー豆を洗う過程で温泉の水を利用していた。日本がメインの輸出先だったようで、「オンセンコーヒー」という名前がついていた。その農園ではゲイシャ種も栽培しており、なんと「オンセンゲイシャ」も存在していた! 冗談みたいな本当の話である。

話を元に戻そう。さらに調べてみると、ガイドのいっていた1ポンド600ドル超のコーヒーはパナマのものらしい。また、コーヒーの生育には高地で水はけがよく、窒素・リン酸・カリウムを豊富に含む火山質土壌がよいとされ、火山国であるコスタリカは昨今コーヒーの栽培地として注目されていることも分かった。あの「スターバックスコーヒー」も初の自社農園をコスタリカに構えているほどだ。

コスタリカ産ゲイシャもそれなりに高い評価を得ているようだ。こうなったら、ゲイシャコーヒーを味わわずに帰るわけにはいかない。翌日は首都サンホセでもっとも有名なコーヒー専門店に足を運ぶことにした。

開店とともにコーヒー専門店に駆け込み、「ゲイシャコーヒーはありますか?」と聞くと「もちろん!」との答え。「ウオッシュド」と「ハニープロセス」の2種類があるという。