新「VAIO S」 性能より漆黒のボディーにグッときた
戸田覚のPC進化論
2017年にフルモデルチェンジした「VAIO S」が早くも大きめのマイナーチェンジを遂げた。CPUが第8世代に切り替わっただけでなく、4コアCPUを搭載するモデルは独自のチューニング「VAIO TruePerformance」を施すことで、処理性能を向上させているとのこと。このチューニングでは、最大クロック周波数は変わらないものの、継続して利用できる周波数を高めている。自動車に例えるなら、最高速度は変わらないものの、巡航速度を上げているわけだ。
同社調べのベンチマークによると、第7世代のCore i7を1としたときに、第8世代のCore i7が1.61、チューニング後は1.82となっている。僕としては、性能が高いほうがいいと思っているが、近年、十分に性能が上がったCPUでは、ベンチマークほどの差を体感しにくい。だが、VAIOを買うユーザーは、多少なりともテクノロジー好きなはずで、そんなユーザーには、魅力的に映るだろう。
VAIO TruePerformanceの設定は、VAIOの電源管理ユーティリティーで変更できる。パフォーマンス優先時にオンになり、標準、サイレントモードではオフだ。なお、4コアCPUを搭載するモデルは、バッテリー駆動時間が30分から1時間ほど短くなるという。
スペシャルエディションはつや消し黒
新モデルで僕が注目したのが、VAIO TruePerformanceを適用したスペシャルエディションモデルだ。まるで墨で塗りつぶしたような真っ黒な外観で、その名も「ALL BLACK EDITION」という。
VAIOがソニーから独立してしばらくたつが、いよいよ「らしさ」を発揮し始めているように思う。以前のように、デザインにこだわる若年層からマニアまでを網羅しつつ、他社との違いを打ち出そうとしているように見えるのだ。もちろん、企業としての体力には限界があるので徐々にではあるが。今回はマニア向けの外装で、これがもう「僕らの気持ちをよく分かっているな」というデザインである。
世は、まさにつや消しブームで、特にマニア層にウケている。フェラーリやランボルギーニなどのスポーツカーにも、つや消しをよく見かけるようになった。VAIOはもともとつや消しの黒のモデルをラインアップしていたのだが、さらに黒さを増したのがALL BLACK EDITIONなのだ。ポイントは、天板のロゴと液晶終端の金属パーツ。どちらも目立つアイコンを担っていたのだが、それすらも黒く塗りつぶしてある。
ThinkPadよりも黒々としている
僕は個人的に黒いパソコンが好きで、特につや消しの黒には大いにそそられる。言うまでもなく格好いいからだが、なぜ格好いいと思うのかをじっくりと考えたことがある。実は、単に黒いからだけではないのだ。
パソコンの外装は、さまざまなパーツを組み合わせて作られている。さらに、放熱用のスリットやねじなどもある。つや消しの黒ボディーは、それらの合わせ目が目立たないからまとまりがいい。さらに黒には全体を小さくコンパクトに見せる効果もある。
黒いパソコンと言えば、レノボの「ThinkPad」が代表的だ。一時期やや茶色がかった黒いメタリックのつや消しに色合いが変わったが、昨年あたりから往年のピーチスキン風の黒が復活している。とはいえ、黒さではALL BLACK EDITIONのほうが上を行くと思う。
単に黒ければいいというわけではないものの、ALL BLACK EDITIONはかなり格好いいと思う。つや消しの黒はキレイに使うのが大変なのだが、そこは愛着を持って使い続けたい。
気になっていた弱点が解消されていない
ALL BLACK EDITIONはマイナーチェンジ版のため、CPUや本体カラー、外装の仕上げが変わっただけで基本的な構造は変化していない。僕はVAIO Sを高く評価しているし、過去の記事で書いたように、コンパクトな11型モデルはライバルも少なく、良い構成だと思っている。ただ、いくつかの弱点が解消されていないのは残念だ。
最も気になるのが、いまだにUSB Type-C端子を採用していないこと。テクノロジーの最先端を走るVAIOだけに、USB Type-C端子は絶対に欲しい。それも、充電をUSB Type-C端子にして、パワーデリバリーに対応してこそ「らしさ」を発揮できると思うのだ。
また、個人的にはキーストロークの浅さも気になる。1.2mmストロークでは打ち心地が悪すぎる。僕はストロークは2mmに近いことが望ましいと思っている。
全体的に見て、今回のマイナーチェンジはなかなかいい。ALL BLACK EDITIONはかなり格好良く、VAIO TruePerformanceによる性能アップをおまけと考えたとしても、僕にとっては前モデルより魅力的だ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2018年1月23日付の記事を再構成]
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